S4-1 日本食の中心 米

ご飯を中心に据えた結果生まれた文化と言えば、まずは「おかず」の存在だ。そもそも、副菜という発想自体が特徴的と言えるね。

おかずというのは、食文化の特徴的には2つの役割があると考えられる。ひとつは、米だけでは摂取できない栄養素を補完すること。もう一つはご飯を食べやすくすること。この2つを兼ね備えた最強のおかずってなんだと思う?以前にも登場した「味噌汁」だよね。覚えている人もいると思うけれど、とにかく最強。

ご飯といっても、現代人の捉えているご飯とは少々事情が違う。まず、白米じゃない頃から始まったから。基本は玄米。だからパサパサしている。そうすると、口の中の水分が全部持っていかれる感じになって食べにくいでしょ。だから汁物が欲しいわけ。それでいて、味がしっかりしているから淡泊な味のご飯も進む。更に、お米からは摂取できないリジンなどの栄養素も含まれていて、しっかりタンパク質も含まれている。しかも、発酵食品としての効能も期待できる上に、野菜や海藻や貝類などの具材も一緒に摂取できる。それも、水溶性の栄養分だって汁に溶け出しているわけだから、余すことなくね。

味噌汁がご飯のおかずとして最強だという話は、シーズン1の「地味だけどスゴイ味噌汁」をおさらいしてもらうと分かる。栄養素については、後で詳しくやるのでここでは飛ばしますね。

おかずの話を続けよう。味噌汁の他にも魚が食卓に登ることが多かったのも、味がご飯と相性が良くて、タンパク質だからだろうね。他にも、味噌や醤を使った煮物や焼き物が発展していった。これには、ご飯の特性が関係している。

まず、味が淡泊であること。ちゃんと味があるのだけれど、それほど主張しない。主役なのにね。そして、味噌塩醤油といった、塩味との相性が良い。つまり、一緒に食べると美味しいということが生まれるわけだ。これは、ご飯自体が甘味を持っているから。単純に塩おにぎりが美味しいのだから、この相性の良さは疑う余地もないと思うけどさ。

そして、これが日本料理の味付けを特徴づけていくことになる。ここがとても興味深いところでね。まず前提の話から。五味というのがある。味付けの要素を5つの味に分解したもので、甘味、塩味、酸味、苦味、辛味の5つだ。このバランスを取ることで、全体を美味しいと感じられるように調味したものが料理という考え方のことね。この中でも特にメインで用いられる味付けが、甘味と塩味。日本料理のほとんどは、甘いとしょっぱいのバランスを整えるところで決まっていると言っても過言ではない。大体の味は「甘じょっぱい」でしょ。

この甘じょっぱいの基本になっているのが、塩とご飯の関係から来ているんだと思うんだよね。しょっぱい味付けが発生するのがいつ頃かはわからない。海洋国家である日本。周りには塩水がいくらでもあるわけだ。古代だろうとなんだろうと、便利さを考えなければ海水で十分に味付けができるんだから、自然に定番化したんだろうけどさ。これが、ご飯と抜群に相性が良い。

日本料理の味付けの基本は、お米の甘さと海のしょっぱさ。と言われたら、どう?論理的にどうかは横においておいても、直感的に理解しやすいんじゃないかな。ニッポン人なら。

塩が貴重だった大陸内部の地域では、この甘じょっぱいが発生しにくいよね。まず、塩が貴重だし。メソポタミア文明から西側に広がる文化圏では、しょっぱいと組み合わせるのは、スパイスや酸味が中心だし。塩の入手が難しい地域では甘酸っぱいが多い。これは、味の基本が果物にあるからじゃないかな。

こういった、人類の進化のなかで、地域ごとの味付けの特徴は食物によって形成されていくわけだ。日本料理の特徴を端的に示す「あまじょっぱい」は、お米と海水に紀元がありそうだという考察はとても興味深いものがあるよね。ぼくは、個人的に納得しちゃっているよ。

このお米の甘味を他の料理でもどうにか活用できないかなあ。という感覚が調味料の進化にも影響があるといえるよね。みりんは発明されたのが近代以降だけれど、みりんという調味料のおかげで日本料理が飛躍的に幅が広がったのは、お米の甘味を調味料として活用できるようになったことが大きい。

既に砂糖が生産されていた時代だったのに、砂糖よりもみりんが重宝されてきたというのがとても面白い。甘味のなかでも、サトウキビ由来ではなくお米由来のほうが日本人の舌にはマッチしていたんだろうね。味噌は、米麹を用いるものが多い。麦麹や豆麹もあるけれど、米麹で作られるもののほうが多数派。つまり、味噌自体が甘じょっぱいということを求められているってことになるかな。

みりんも、味噌も「米麹」が重要な役割を担っている。米麹がなくなると日本料理は崩壊すると言っても過言ではない。

ところで、麹ってなんだか分かる?すっごく単純化すると、蒸したお米がカビている常態。カビといっても、その辺りでよくみかける青カビじゃなくてコウジカビね。このカビがデンプンとかタンパク質を分解していって、その時に酵素を発生させる。そして、この酵素がデンプンやタンパク質を分解する時に旨味や甘味を発生させるというモノ。

これが、日本固有の味を作る元になっているんだよね。そもそも、麹の技術自体が東アジア地域特有の発酵技術だし、コウジカビだって地域ごとに特性がある。つまり、日本で利用されるコウジカビはニッポン独自のカビ。その床になるのが、米や麦や大豆ね。

米麹が活躍するのは、味噌だけじゃない。みりんだってそうだしね。他にも、日本酒や醤油、酢だってそうだ。米麹がなくっちゃ始まらない。それにね。皆の大好きなお寿司の文化だってお米と米麹がなかったら成立していないんだよ。

お寿司というと、握り寿司を指すことが多いけれど、それは現代の話。もともとお寿司と言えば、押し寿司だし、もっと前はなれずしだ。なれずしというのは、鮒ずしとか鮎ずしとかが代表的。魚や野菜をご飯と塩と一緒に漬け込んで乳酸発酵させたものね。発酵の過程で自然と酸味が出てくる。これを進化させて考案されたのが押し寿司。鯖寿司なんかが有名だよね。乳酸発酵じゃなくて、ご飯を酢飯にして酢じめしたサバを乗せて押し固めたもの。これが原型になって、思いっきり簡素化させたのが握り寿司。

米麹がなかったら酢が無い。だからすし飯を作れないってこともあるけれど、原型をたどると発酵させるためにもご飯を使っていたからね。その進化系である握り寿司だって生まれていないわけだ。まあ、そもそもご飯がなかったら握り寿司にならないのだけど。

ちなみに、お米とは関係ないけれど、初期の握り寿司はかなり大きかったんだよ。それこそ押し寿司くらいのサイズ。なぜかって。そりゃ押し寿司を作るのに時間と手間がかかるからっていう理由で簡素化させたわけだから、当然そのくらいのサイズで握るということを考えたのよ。それだと、食べづらいもんだから「ちょいと半分にしてくんな」ってな具合で切ってもらって食べたのね。だから、握り寿司の数え方は2つで一貫なんだ。最近では一個なのに一貫って数えちゃう人が多くなっちゃったけど。

もう一つおまけ。初期のお寿司は江戸の華屋与兵衛という人が始めたのね。ただ、ここにもう一つの発明があってさ。赤酢というお酢を大々的に生産したお店があるんだよ。それまでは無かったお酢の種類。これは、日本酒が過発酵して出来ちゃうお酢で、いわば日本酒の失敗。こんなものを日本酒の蔵で並べて作っていたら、他のお酒も全部お酢になっちゃう。だから、日本酒を作るときにはお酢なんかの他のコウジカビが絶対に混ざらないように細心の注意を払うべき。なのに、日本酒の生産をやめて一気に赤酢の生産に振り切った蔵があったの。それが今のミツカン。

赤酢は、一般的な米酢に比べて甘味や旨味が強かったから、それが握り寿司ととても相性が良かったんだって。だから、初期のすし飯は赤酢をご飯に混ぜただけのもの。現代では米酢に砂糖と塩を混ぜたものを使うことが一般的ではあるけれど、これは元々赤酢の味に近づけるためだったんだね。もちろん、今でも赤酢を使っているお店もあるよ。

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