S6-1 世界で一番飲まれているお酒、ビール

世界で一番飲まれているお酒はなんだと思う?圧倒的にビールだ。一年間で生産されるその量はおよそ20億ヘクトリットル。(1ヘクトリットルは100リットル)

ちなみにワインは2億ヘクトリットルくらい。ブランデーやウイスキーなどの蒸留酒は全部足して7000万ヘクトリットル程度だから、ビールの生産量の多さが飛び抜けて多いのがわかる。これは、もちろん世界中で愛飲されているからこそだ。

なぜ、ビールだけがこれだけ突出して多くの人に飲まれているのか。これが謎である。世界にはたくさんの酒があるのにも関わらず。しかも、ワインや日本酒と比べても「苦い」という特徴があるのだ。味覚は五味に分類されていて、その中に苦味がある。つまり、苦味も美味しさの内ということであるのは間違いない。だけど、苦味が甘味や酸味を大きく引き離していちばん人気なのだ。

そういえば、お茶やコーヒーも苦味である。そもそも人類は苦味が好きなのだろうか。

よくよく考えてみると、苦味のある食べ物や飲み物を口にする動物は数少ない。人間の親戚であるチンパンジーだって、苦味を食べられる個体とそうでない個体に分かれている。もちろん人間だって、選り好みはある。けれども、ここまで苦味を好む動物は他に類を見ないのだ。

ほかの動物との比較で言えば、アルコールも同様だ。ほとんどの動物はアルコールをまともに分解することが出来ない。ニホンザルなんかはお酒に酔って気持ちよさそうな顔をしているし、牛にビールを飲ませる成育方法もある。けれど、犬や猫などの動物は、呼吸数の低下や意識障害などの症状を起こしてしまう。ひどい場合にはアルコールのせいで昏睡状態に陥ったり、心肺停止状態に至ることすらある。

動物によっては、アルコールは中毒症状を引き起こす毒物なのだ。

現代人の多くが「苦いアルコール」であるビールを好んで飲んでいる。

どうだろう。とても不思議なことのように思えてきたのではないだろうか。今回は、ビールを通して人類の味覚や特性についても少し触れていこうと思っている。

ちなみに古代初期のビールは、僕たちが想像する味じゃない。ぜんぜん違うのだ。それも含めて工程も紹介していく。

そう言えば、ビールはもともと栄養食なのだ。ビールが無い食卓は、完全な食事ではないとまで言われている。「パンや肉だけじゃ駄目」というくらいの位置づけ。だから、老若男女みんなが飲むものだ。アルコールだから酔う。だけれども、酔っ払うかどうかは二の次という感覚が、現代人のそれとはかなり違う。お酒という感覚がない。フワフワと良い心持ちになる美味しいスープくらいのものだ。

だから、パンとビールはセット。まるで、ご飯と味噌汁のような関係。

毎回のことでお馴染みになってきているけれど、最初はドリンクではなかった。という話なのだ。

ついでに言うと、当時のパンはもっとかたい。かたいという表現は適切ではないかもしれないな。もっと詰まった感じのしっかりしたパン。今でもそういうパンあるよね。イースト菌を使わないからそうなる。現代のようなフワフワしたパンは、最初はビールから始まった。パン生地にビールを混ぜてから焼くとふわふわになることに気がついたのは古代人なんだよね。そういう意味でもパンとビールは常にセットである。

そして、この古代ビールがそのままの流れで現在につながっている。と言うときれいな流れなのだけれど、実はそうでもない。一旦は途切れた。と言われている。なのだけれど、今回勉強してみて地下に潜ったという感覚が近いかもしれないと思っている。表舞台からは消えてしまったけれど、ちゃんと他の系譜に引き継がれているんじゃないかと思うんだよね。「一度ギリシア哲学が西欧社会からは消えたけれど、イスラム社会に保存されていた。」というのに似ているかもしれない。

現代ビールのルーツはイギリスからスタートする。

そこから、北ヨーロッパで広がり、産業革命でブーストされて、大航海時代の荒波で揺られ、世界中に広がっていく。もちろん日本にもやってくる。そして、各国のオリジナルビールとその文化が独自に発展していく。

なぜだ?こんなにも世界中で広く愛されるお酒に育ったのはどういうわけだろうか。きっとその裏には、時代ごとの社会背景が影響しているだろう。

それぞれの時代や社会で、人類がどんなふうにしてビールと付き合ってきたのか。その間にみられるいろんな「なぜ」を探っていくことにしよう。

それぞれを比較していくことで、現代人である私達が「ビール」とどう向き合っているのかを知ることにも繋がるだろう。そんな自分を眺めるのも感慨深いものがある。

ビールと人間との関係を紐解きながら、これからもっと楽しいビールライフを探しに行こう。

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