S2-1 魅惑のスパイス胡椒
学生時代の歴史の授業で「胡椒は金と同じ価値を持っていた」と習ったと思うけれど、これがずーっと謎だったんですよね。だって、近所のスーパーに行けば数百円で売っているでしょ。大抵のラーメン屋さんにはテーブルにひとつずつ小瓶が置いてあるし。これが金と同価値だったら、とんでもない資産だよ。ホントにそんな時代があったの?って疑いたくなる。実際、学生時代に先生に質問したんだけど、答えてもらった記憶がない。
実は、たべものの歴史や食文化の変遷を紐解いていく上で「大航海時代」は避けて通れない。食文化が大きく動くタイミング、ターニングポイントが歴史上にはいくつかあって、そのなかでも最も大きなインパクトを与えたのが「大航海時代」だ。断言しても差し支えないだろう。
なんせ、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に辿り着き、アフリカ大陸やアジアへ船で往来を始めた時代だ。人の往来が爆発的に激しくなった時代でもあるのだから、ありとあらゆる文化が混ざり合うことになったわけだ。
この大航海時代がいったいどんな時代背景だったのかを知ることは、食文化やたべもののことを理解する基礎知識になる。そう思って改めて大航海時代を勉強し直したところ、とても興味深い食材に行き当たった。それが「胡椒」だ。
実は、たかが胡椒のせいで世界がメチャクチャなことになっていく。ホントにびっくりするくらいにひっくり返るんだ。胡椒が欲しいという欲望のために、船を進化させるし戦争はするし株式会社の原型は生まれるし、とんでもない社会変革を促すことになる。なんだってまた、胡椒くらいのことでそんなことが起こり得るのか意味不明だ。そう、現代の感覚ではまったく理解が及ばない。
これだけの社会変革が起きるのだから、当然食文化なんてものものガラリと変わることになる。食文化の変化は胡椒だけじゃなくて、他の食材の影響も大きい。同じ時代にアメリカ大陸からヨーロッパを経由して世界中に広まっていった、ジャガイモやトウガラシ、トマトが世界の食文化をそれまでのものとは全く違うものに書き換えていくことになる。それが大航海時代だ。
学生時代の疑問もあったので、胡椒の歴史を紐解きながら大航海時代について一緒に勉強していくことにしましょう。ということで、今回は半分くらいは歴史の授業になるかも。
S2-2 そもそも胡椒って何?
まず、原産地はインドの南西地域。英語でペッパー(pepper)と呼ばれているけど、古代インドの言葉サンスクリット語で「ピッパリ」と呼ばれていたのが語源。これがヨーロッパに伝わってペッパーになる。
ちなみに、言語学的にはインドヨーロッパ語族と言われている通り、インドサンスクリット語もヨーロッパ語に近い言語だ。語感の近い言語で、読み方の変化が現れやすい。中国で使われている漢字を日本語読みすることで多少変化するのに似ている。