ものの見方を学ぶこと。 2023年4月30日

売り場の展示については、一家言持っている。と言っても、今はほとんど使うことのない知見であるのだけれど。以前の仕事では十分に活躍した知識だし、実績を上げることが出来た。なにしろ、10年以上小売店で販売の仕事をしていて、週に一度は売り場の構成を変えながら集客や売上の変化を観察し続けていたのだ。機械学習的な積み上げで、何をどうすればどう変わるかというのを見続けてきたという背景がある。

だからといって、小売販売店のコンサルティングが出来るかというと、そうでもない。やったことがないわけではないけれど、やらない。ぼくが積み上げてきたロジックは、特定条件下であればフォーマットとして使用することが出来るかもしれない。けれども、異なる条件下では試行錯誤と観察によって解を探していくしか無い。試行錯誤の方法と観察すべきポイントを知っているかどうか、という点だけが優位なポイントで、それさえ知ってしまえば、コンサルタントの出番などは不要になるはずなのだ。

なにかの専門家が、その専門知識を生かしてコンサルティングなどのサポートを仕事にすることがある。基本的には、社会の役に立つことなので良いことだと思う。ただ、どのような知見をどんな形で生かしているかを見定めなければならないのだろうと思うのだ。上記の例が正しいかどうかは分からないが、大きく分けて2つある。ひとつは、パターンによる提案。もうひとつは、視点による提案。

いずれにしても、実験や観察に基づく経験値や、様々な角度からの思考や検証によって得られた学びの結果。それなりに、実績もあれば自信もあるだろう。気をつけなければならないのは、前者の場合。会得した「パターン」は、特定の条件下で駆動するものだろう。一般的に使えるようにと工夫したとしても、それが万能であるということはないだろう。むしろ、汎用化すればするほどにパターンのもつ効果は薄れてしまう気がするのだ。

ぼくの場合は、ショッピングモールや百貨店などのような集約型施設の中にあるテナントの売場づくり、という条件が付帯する。かなり特殊な状況に限られているのだけれど、それでも画一的に使用できるテクニックではないと思っている。つまり、もっと細かな条件に合わせて変更すべき点があるのだ。少なくとも僕の場合は、だが。

前職では、時として担当していない企業の売り場改善のアドバイスをしたことがあった。もちろん、求められたからである。その場合は、パターンを一切話さないことにしていた。状況が違うので、あまり意味がないのだ。必要なのは、何を見るかというポイント。

これを売りたいから売り場の目立つ場所に展示する。というのは、よくあることだ。けれど、それが必ずしも効果を発揮するとは限らない。売りたいと思うのは売り手の都合であって、興味をもつのは消費者なのだ。周辺の環境や社会に出回っている情報などを見て、相対的に売りたい商品が売れるように展示しなければならない。

ここで詳細を語っても仕方がないのだけれど、端的に言えば「消費者の思考の物語をトレースすること」と「目線の動きを意識すること」の2つが大きなポイント。何を見て何を考えて、その後に何を見て、次にどんな思考に至るのか。ただそれだけ。それをつぶさに観察して、ほんの僅かに誘導を働かせる。極端な誘導は作為的になりすぎるし、たとえそれで売れたとしてもお互いに幸せにはならない。ほんの僅かにというくらいのさじ加減で行うのが、ぼくなりのこだわりといえばこだわりだ。

さて、長々とぼくの個人的な経験と、そこから思いついたことを書き出してきたのだけれど、この考え方は汎用性が高いのではないかと思ったのだ。コンサルタントとしてではなく、顧客側の視点としてである。企業や行政がコンサルタントに仕事を依頼することがあるだろう。肩書はもっと違うかもしれない。場合によっては、有識者会議や市民の声を聞くための公聴会かもしれない。

つい、個別具体の意見に目が向いてしまう。それはそれで大切なことではある。けれど、具体的な意見を聞きながらも、同時に「どのような視点から物事を見ているのか」を意識すると良いのではないだろうか。こういう視点、ああいう視点、というのを集積していく。視座や視点や角度や見るポイントなど、様々に学んで取り入れていく。なかなか自分たちでは気が付かないことがあるから、外部の人の声を聞くということに価値があるのはそこなのだろうと思う。だとしたら、公聴会を行ったのなら意見を「視点別」に整理しておくことも有効なのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。表面の意見も大切なんだけどね。同時に、どんな視点を持っているのかを知って、それを楽しむようにフラットに集積するってのも大切なんだと思うんだよ。最終的にどう判断するかは、また別の話だから。

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