個人的な「理想の雇用」 2022年9月30日

会社の経営をしていて常々言っていることがある。今のところ実現の余地がないのだけどね。それは、現在のところ社員が家族だけだからなんだ。

企業にフリーエージェント制度を導入したいって思っている。

プロ野球の世界に、フリーエージェントという制度がある。同じ球団に10年所属していると、選手に球団を選択する権利が与えられる。そのまま球団に残るのか、それとも他の球団との交渉に移るのか。もちろん、他球団が欲しがってくれないとどうしようもないのだけれど、少なくとも所属球団からの束縛が無くなる。という制度ね。

一般企業の場合、そんな制度がなくたってかまわない。それは、他の会社からの引き抜きがあっても良いし、転職するのも個人の自由だからだ。常にフリーエージェント制度の条件を保有しているのがサラリーマンだとすると、とても自由な立場にいることがわかるよね。

ぼくがやりたいのは、この一歩先のことなんだ。10年が適正なのかどうかはわからないけど、取り敢えず一定期間は頑張ってもらう。その間に転職するのも構わない。ただ、一定期間で一定以上の実力を付けたとか、成果を出したとかいう人を、全面的に支援応援する制度にしたいのよ。

飲食店に勤務する人の中には、自分の店を持ちたいという夢を持っている人もいる。キャリアアップのために他の人に師事したいという希望を持っている人もいる。そういう場合に、例えば紹介状を書くとか、出店のための資金を貸すとか、具体的な支援が出来るようにしたいんだ。

企業としての内部留保は、卒業生に投資するための資金を主要目途にしたいくらい。

すでに、日本料理の世界では慣習として存在しているんだけどね。修行のために他の店に移るときには、親方同士で話をつけてくれる事例は昔からある。いつまでも自分の手元にいないで、他の世界を見てこいって。で、店を持つときにはカウンターに使用する木材を一本提供したり、暖簾や看板を作ったりする。もちろん、そこに親方の名前や屋号が入ることは一切ない。粋だよね。

この慣習は、暗黙の了解の中にあって、あんまり知られていない。知られていないせいなのか、最近では消失しようとしている。

他にも似たような文化がる。ぼくらの業界では「助(スケ)」って呼んでいるんだけど、助っ人のことだ。単純なアルバイトの場合もあるにはあるんだけど、それが本質じゃない。他のお店に無償で助っ人に行くんだ。所属元の労働としてカウントされるケースも珍しくない。他のお店を手伝う代わりに、その店のやり方や料理や考え方を体験するという勉強の場なんだ。

賃金のことはちゃんと考えなくちゃいけないけれど、他の企業のやり方を勉強する機会があるというのは良いよね。それこそ、将来独立しようと考えている人にとっては貴重な経験になるかもしれない。

自分の店を持つならば、常連のお客さんにも紹介したい。できれば、起業時の金銭的支援だって行いたい。起業するために必要な知識や経験が学べる環境を用意したい。そして、㈱武藤を卒業したというだけで、ブランドになるくらいの会社でありたい。とまあ、そんなことを思っているんだ。

もし失敗したらまた帰ってくればいいじゃん。もともと仲間なんだ。裏切ったわけでもなんでも無い。ただ、やりたいことがあって、挑戦しただけ。うちで良ければ、もう一回ここから始めたって良い。

料理人だけじゃなくて、すべての従業員にこれを適用出来るようにしたいんだよなあ。儲かる雰囲気は全く無いけどね。でも、面白そうじゃん。こんな風につながった仲間って、後で一緒に酒を飲むときがあったらメチャクチャ楽しいはず。

だと、思うんだよねえ。

今日も読んでくれてありがとうございます。とまあ、夢を書いてみた。親父が似たようなことをやっていたんだけど、業界内で廃れてしまったのが寂しいのかもしれないなぁ。今はまだ、企業としての体力もないし、従業員だって親族しかいない。銀行にこれを語ったときには、儲かる気がしないと一蹴されたし。さて、ここからどうやって辿り着いてやろうかな。

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