「おめでとう」の意味と共感のちから。 2023年1月4日

明けましておめでとうございます。と言っているうちに、あっという間に4日が過ぎてしまった。正月といえば、もう少し特別感というか、華やいだフェスティバルのような感覚があったように思うのだが、どうなのだろうか。今年も年末年始は仕事である。特別なことといえば、カレンダーが変わったことくらいで、昨日の続きといった感覚が強い年越しになった。

そもそも、年が改まることと、それを特別なものとして捉えることは別物なのかもしれない。特別なものとして感じるための仕掛けが社会の中にあって、そこにちゃんと参加してこそ特別なものと感じ取ることが出来るのかもしれない。忘年会をやって、年越しそばを食べて、おせち料理を準備して、門松を飾る。新年を迎える準備を整えて迎えた正月には、正月の挨拶をして、親戚に会って、お祝いの食事をして、初詣に出かける。これらの一連の手順が、心のスイッチを切り替える儀式になっているのだろう。

もしかしたら、正月休みはそのためにあるのかもしれない。もともと、日本においては全員が年齢を重ねる日でもある。生まれてから何回「年」という単位を生きてきたかというのが数え年。生まれたのが令和5年なら、既に令和5年に存在しているから1歳。令和6年になれば、元日に2歳。現代人の感覚からしたら不思議な感覚のように思えるけれど、それが普通だった。

それがなぜかを探究するのも面白そうだけれど、それはまたいずれの機会に譲る。ともかく、元旦というのは日本人にとって特別な意味を持っていたのではないか、という推測が成り立ちそうである。

そういえば、年始の挨拶は「おめでとう」である。英語のハッピーニューイヤーとは、その感触が違っているように思えるのだ。ハッピーという言葉にも、確かにおめでとうというニュアンスを含んでいるようではあるけれど、どちらかといえば「幸せ」や「楽しい」という印象が強い。おめでとうというのであれば、コングラチュレーションのほうがピッタリと当てはまりそうだ。セレブレーションでも良いのかもしれない。

言語について学識があるわけでもないので、直感でしかない。実際のところはどうなのだろうか。

おめでとうと言う時、自分以外の誰かに対して「良かったね」という共感と祝福の気持ちが含まれているように思える。自発的に嬉しいということよりも、あなたに良いことがあったから私も嬉しいという感覚。

もう一つ、めでたいという形容詞もある。その出来事そのものが皆にとってめでたい。だから、互いにめでたいということを確認し合うために「おめでとう」と言い合っているのかもしれない。

めでたいの語源をちょっと調べてみた。もともと「愛でる」と「いたし」が接続した言葉らしい。「愛でる」というのは、美しさや可愛らしさに感動してその美しさを味わい、可愛がり大切にすることである。これは、現代の感覚でも通じるのだけれど、こうして言語化された説明を読むとむず痒い感覚を覚える。「いたし」は古文に登場する「いと○○」という意味に通じていて、程度が甚だしいという意味だ。めでいたし、というのが原型らしい。

メチャクチャ素晴らしい日であり、それを慈しむ気持ち。が「新年おめでとう」にコメられているということになる。なかなか味わい深い表現だ。新年を迎えたことそのものが美しく素晴らしい。その程度が甚だしい。無事に時を過ごせたことを感謝して慈しむということなのかもしれない。

昨年一年間で、沢山の人にたべものラジオを聞いていただいた。特別な賞を受賞したこともないし、ユーチューブもあるような無いような状態だし、知名度だってない番組。その上、内容はそこそこにややこしい。にも関わらず、数千人という人たちに聞いてもらっている。この事実はありがたくも、めでたくもある。ぼくらのことではない。聞いてくださる方々の存在が、稀有で貴重なのだ。美しくて、それを味わいたくなる現象なのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。同じ物事を面白がれるというのは、良いよね。共通の趣味というのと同じだし、食べるものが同じということでもある。同じ食べ物を同じ様に食べているというのは、人類のコミュニティを形成する上で重要な鍵である、と人類学の先生が書いた本に載っていた。同じ様に、ひとつの事象を一緒に祝ったり面白がったりすることは、人と人をひとつに結ぶ鍵になるのだろうな。

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