今日のエッセイ-たろう

シェアリングはどこまで拡張できるのか。 2023年10月1日

近年は、なにかとシェアの精神が発揮される社会になってきた。富を独占するのではなくて、みんなでシェアする。知識もシェアする。イギリスの王立協会も、フランスの王立パリ科学アカデミーもフィレンツェ実験学会も、科学知識のシェアという精神が働いていたのだと思う。互いの知識を共有することで、自らの発見を発表して手柄にすることが出来たのかも知れなけれど、それと同時にシェアされた知識を元にして新たな科学へと進む言動力にもなっただろう。しっかりと「巨人の方に乗る」ことが出来るようになったのだ。

カーシェアリングが社会に実装されてからどのくらいたっただろう。そして、どのくらい普及しているのかな。若い世代を中心に都会では利用者が広まっているという話を聞くのだけれど、田舎ではあまり見られない。移動には車がないと不便だ、と感じるような環境ではカーシェアリングは広まりにくいんだろうね。わずらわしいもの。

シェアリングの良いところは、コスト削減だろう。車を維持するコストを分散させることで、一人あたりのコストを下げることが出来る。その意味で言えば、バスや電車もシェアリングの範疇。移動時間がかかったり、移動できる先が限定されたりといった制限はあるけれど、まとめて多くの人が移動するのだから、移動にかかるエネルギーの総和は下がることになる。

都会の場合は、ある程度「公共交通機関を想定したまち」として作られている。都内に暮らしているときの感覚では、自家用車は贅沢品だった。ぼくがまだ若かったといこともあるけれど、やっぱり電車移動のほうが早いし、安いってことがあるんだよね。自家用車は維持するだけでもコストが高い。

田舎では、田舎なりのやり方で移動コストのシェアの仕組みを考えないと、シェアリングは進まないだろう。つまり、コスト削減には繋がりにくいんだよね。

シェアキッチンというのもあるね。シェアキッチンは飲食店がキッチンをシェアするというケースが多いみたいだ。ぼくらのような日本料理だと仕出しというのだけれど、デリバリーを主戦場とする複数の飲食店が同じキッチンをシェアするという形。それから、ひとつのホールなのだけれどキッチンをシェアしている場合。こちらは、消費者目線で見ればフードコートのような感覚なのだけれど、飲食店もキッチンをシェアすることで維持費を削減することが出来るというメリットが有る。そのうえ、集客も合同で出来るという優れものだ。ただ、そのスペースの運営側のコンセプトの打ち出し方や営業の仕方によって大いに左右されるし、独自のコンセプトをアピールしにくいというデメリットも有る。まぁ、飲食業の話だ。

シェアキッチンの概念を一般家庭に持ち込むことは難しいのだろうか。というのが、目下の問いである。各家庭に冷蔵庫があって、ガスコンロだのIHコンロだのがあって、電子レンジもあるしオーブンもある。コンロは頻繁に利用するだろうし、現代社会では電子レンジのほうが指標頻度が高いかも知れない。けれども、都会であれば多くの時間をオフィスで過ごしていて、自宅にいる時間が少ないという人も多いだろう。だとしたら、キッチンをシェアすることで維持費や管理コストを削減したり、いくつもの家電を購入したりすることから逃れられるかも知れない。ということを想像してみたいのだ。

戸建て住宅で、近隣住民とキッチンをシェアするとなったら、調理をするときは外出することになる。これは少々面倒くさい。服装にも気をつけなくちゃいけないし、すっぴんじゃ嫌だという人もいるだろう。その代わりに、自宅にはオーブンも大型の冷蔵庫も電子レンジも所有しなくて良い。購入代金もかからなければ、電気代もかからない。シェアキッチンの冷蔵庫には契約者のスペースが割り当てられているので、食材はそこに保管しておけば良い。となると、食材の買い物をしたら、自宅ではなくシェアキッチンに直行することになるのだろうか。もしかしたら、塩や醤油などの調味料もシェアすることになるかもしれない。調味料に思い入れがある人には難しいかも知れないけれど、可能性はあるかな。調味料の種類によっては、使い切る前に劣化してしまうようなものもあるから、シェアしたほうがロスが少ないかも知れない。

集合住宅なら、もう少し利便性が高まるだろうか。ただ、調理に対する気軽さは低下するんだよね。めんどくさいから冷凍食品を温めよう。なんてときに、わざわざ出かけていくのも面倒に感じるのかも知れない。冷たい飲み物を飲みたいときには、小型でも良いから自宅に冷蔵庫が欲しいだろうな。

ただの妄想で、ある種の思考実験。特に主張があるわけではない。人類は、食生活においてかなりコストが高いということだから、コストを下げるために「施設を集約してコストを分散する」というのはどうだろうな、と思ったんだ。けど、いろいろと大変そうだね。

それが当たり前の社会になっちゃったら気にならないのだろうけれど、個別に所有する社会を知ってしまったからなあ。

今日も読んでくれてありがとうございます。タイでは、キッチンがない住宅がけっこうたくさんあるらしい。数年前に訪れた時に、そう教えてくれた。食事はどうするのかと聞いたら、基本的に屋台だっていうんだよ。もしかしたら、これもシェアリングのひとつの形なのかもね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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