食を通して歴史を見るということ 2022年7月10日

食文化という側面で未来を考えることが徐々に増えてきた。確かに、番組を始める前から感がていることではあったのだけど、それが深まってきた感じがあるんだよね。たべものRadioで話している内容について、初めからある程度知っていることもあるけれど、Radioのために勉強していることのほうが多いからさ。つまり、ぼくが勉強したことをRadioに変換している。大人の自由研究をして、勝手に発表会を垂れ流して、それを皆さんに聞いていただいている。なんともエゴの塊のような番組である。

食文化と同時に、食産業のあり方についても意識が向かうようになったのは最近のこと。スシシリーズと冷やすシリーズからの日本酒。このコンボはメインパーソナリティーであるはずのぼくが、もっとも影響を受けたシリーズかもしれない。文化や歴史もそうだけど、産業や経済の流れがとてもおもしろかったんだよね。この文脈が見えてくると、現代の食産業に対する解像度が上がったように感じているんだ。まだ、明確に言語化することができるレベルじゃないのだけどね。

食という視点から歴史を眺める。歴史って言葉が適切なんだろうかとも思うんだけどね。ぼくの感覚では履歴書かな。どこで生まれて、どんな人生を歩んできて、そしていま僕らの目の前に立っている。彼はいったい何者なんだ。という感じ。

眼の前の人物をより深く知るために、その人の過去を知ることは大きなヒントになる。どのような未来が待っているかは全くの未知だし、予測するのは不可能に近い。けれど、素性がわかってその人の得意な才能のようなものがわかれば、その人に提供すべきモノゴトを判断するヒントにはなる。かな。

歴史ポッドキャストといえばコテンラジオが有名だよね。もうぼくもファンの一人でけっこう聞いてるんだけどさ。基本的に、歴史を語ろうと思うと、今回はフランス革命だよ、とか、今回はオスマン帝国だよってことになる。時間軸や地域、人物で切り取るじゃない。そのほうがわかりやすいしね。そして、それらをつなぐポイントを提示してくれるから面白いんだ。

歴史に詳しいわけじゃない。でも結構好きではあったんだ。だからコテンラジオが面白いって思うんだけどね。歴史を勉強していて面白いのって、ピースごとに学んだことが、つながった瞬間なんだ。前に勉強した話、実はこんなところに繋がってたんだって。何を主役においていても、いろんなものが伏線になっちゃう。そういうのが楽しいんだ。

これと比較してみると、たべものRadioってメチャクチャなんだよなあ。伏線の回収があちこちに散らばっているのは良いんだ。中世でつながることもあるし、現代でつながることもある。世界中のあちこちでつながるのね。これがさ、メチャクチャ広いんだよ。ジャガイモなんかホントにメチャクチャでしょ。

啓蒙主義が登場して啓蒙君主が登場して、アメリカ独立からのフランス革命いって、日本来て、とか。樹形図みたいに広がる。この分岐と広がりが、かなり早いのがジャガイモ。ヨーロッパ着から、いきなり全方位かつ無作為に世界展開しちゃうんだもん。全部の系譜を追いかけるのは至難。Radioではやらないけどさ。ロシアあたりは、まだヨーロッパの延長。だけど、ヒマラヤチベット編とか、清から中国編とか、カルビー論争とかやってたらキリがない。

あとね。これは今回気がついたんだけどね。歴史を復習するにはもってこいの番組かもしれない。過去回を聞くのも良いんだけど、放っておいても同じ歴史的事件は何度も登場するから。すでに30年戦争と7年戦争、産業革命説明するの2回めだよ。ぼくじしんも記憶が曖昧だったりするから、原稿書きながら勉強し直すわけ。何度も何度も、重ね塗りをする学習。これはあれよね。学生時代に一番やらなくちゃいけないやつ。反復学習。これがもれなくセットになってるんだ。

って、自画自賛なんだけど。

それにしても、毎回勉強し直してるんだよなあ。細かいディテールどんなだっけ?あれ?今回の話をするには、背景のところがポイントになりそうだぞ。とか、そんな感じ。なんで一度に頭に入ってくれないんだろう。という挫折を毎回感じながら調べてるんだよ。もう少しでいいから、高性能な脳みそが欲しいわあ。

歴史を学ぶ。というと、学校教育の日本史とか世界史の授業を連想してしまう。そういう人も多いと思うんだ。実際、ぼくも学校の授業では歴史嫌いだったしね。年号とかカタカナの名前とか全然頭に入ってこない。でもさ、歴史を学ぶことの本質って、テストとは無関係なんだよね。割りと、そいういう感覚に導いてくれたのが歴史小説だったりする。小説によって、同じ人物の描き方が全く違うじゃん。なんだこれ、って思うんだけど、そもそも人間って見る人によって全然違った評価をするなんて当たり前だしね。

実は同じことが歴史全体にも言えるんじゃないかって思うんだ。

学校で習うような歴史学習。このほとんどは政治の歴史だ。登場人物も政治家が多い。政治家じゃなくてもそれに影響を与えた人についての記述は多め。文化や文学や芸術って少ないんだよね。もちろん庶民の暮らしの記述は限られているし、大勢に影響は少ないかもしれない。なんだけど、フランス革命の引き金の一つになったバスティーユ牢獄襲撃事件が起こった背景には、民衆のムーブメントがあるわけでしょ。その風潮というような空気感は直接書かれていないかもしれないけれど、どんな食事をとっていて、どんな衣服で、どんな衛生環境でというのがわかると想像できるじゃない。実際に、前年には大飢饉が起きていて、そこから大衆の感情が膨れ上がっていく。

この情景を描いた画家がいて、その時代を象徴するような料理がやっぱりある。ナポレオンが登場してロシア遠征に従軍した料理人がいたから、現代のフレンチコースが誕生する。

歴史ってさ。政治だけで動いているわけじゃないんだよね。人の思考とか感情とかの集合体が、なにか得体の知れない液体のような、霧のようなかたまりになって動いている感覚があるんだ。そのなかの一つが政治であって、文化や文明や科学や芸術やいろんなものが入り混じっている。

食という生活と文化を見るだけでも、歴史というコンテンツは面白くもなるし、学びも増えるんじゃないだろうか。というか、そうだといいな。と思ってさ。

今日も読んでくれてありがとうございます。大層なことを言えるほどの知識じゃないんだ。ホントに、毎回挫折してるし。これだけ知らないことが多いと、もう開き直って楽しいよね。まだこんなにたくさん楽しみがあるんだもの。

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