食のパーソナライゼーション 2022年7月1日

食のパーソナライゼーション。聞いたことがあるかな。ぼくも最近になって聞くようになった言葉だ。パーソナライゼーションって、感覚的な表現だし、日本語に的確な言葉が見つからないんだよなあ。

アメリカに、食のパーソナライゼーションを提供するための企業がある。近年になって、個人個人の遺伝子情報をかなり安く調べることができるようになったんだ。14,000円だったかな。アレルギー情報はもちろん分かるし、どんな栄養素が体にあっているかまでわかるらしいよ。「ムキムキマッチョになりたかったら、あなたの場合はこの食事が合っています。細マッチョならこうです。こちらのパターンは太りやすいです。」

こういうのを一人ひとりの体に合わせて提案できるようになったんだって。

今、新しい食ビジネスとして「個人にカスタマイズされたもの」が注目され始めている。科学的に証明されたものを元に、カスタマイズされたメニューを提供するレストランや、デリバリーなどもある。小規模だけれど実際に立ち上がったところらしい。

なんだか、気持ち悪いって感じる人もいるんじゃないかな。実際、ぼくがそうだ。いや、理屈ではわかるんだよ。一流のテイラーが体の寸法を測って、それを元に美しいスーツを仕立ててくれる。採寸を3D解析で行って何が悪い。そりゃそうなのだ。なんにも悪いところなんか見当たらないのだよ。

どこに違和感があるのかなあ。

仕立てるほうに違和感があるのだろうか。近年の車はだいたい似たような形状をしている。もちろん、各メーカーがオリジナリティを求めたデザインを作っているのだ。それはわかっている。だけど、昭和から平成に見られたほどのバリエーションが無いんだよね。

そりゃそうなんだ。ほんの数十年前までは、空気抵抗を減らすこととデザインを両立させるためにできることは自然を観察することだった。そのうえで居住空間を確保させることも必要だし。だから、動物をモチーフにしたデザインがあって、デザイナーの意匠も様々な方向に展開した。けど、コンピューター技術が進んだことで、それらを全てシュミレーションすることができるようになっちゃったんだよね。このくらいの居住空間が必要で、空気抵抗として許容できる範囲を決めて、エンジン性能とかも入力して、なんてやっているうちにデザインの大枠が定まる。その大枠の範囲内で意匠を凝らすというのが現代の主流なんだ。だから、どうしても似たような形になるわけ。形態は機能に従うとは言うけれど、ちょっと行き過ぎた気がする。

こういうことが、食ビジネスにも展開されそうな怖さがあるんだよね。多様性が失われるかもしれないし。ただでさえ「栄養の正解」「美味しいの正解」を謳った本が飛ぶように売れる世の中だ。ストライクゾーンがゾーンじゃなくなって、ピンポイントになってきてる。面白みのある世界って、一定の枠の中でも多様性と自由がある世界でもあるんだと思うんだ。

だから、採寸したあとの商品設計がとても重要になる。油断すると「儲かるやん」という市場動機で巨大資本が投下されたときに、一辺倒になりかねない。ということは、人類が何度も経験した道だからね。

基本的に、パーソナライゼーションは賛成なんだよ。というか、みんなすでにやってる。ぼくの家庭もそうなんだけどさ。幼い子供がいる家庭なんかだと、もう当たり前なんじゃないかな。例えば、カレーを食べるとするじゃない。そうすると、基本的には子供に合わせて作るから甘口にするんだよね。別々に作ってもいいけれど、コストがかかる。大人は甘口を食べるか、甘口カレーにスパイスを追加して辛くする。そうすれば、余ったカレーを翌日以降も、家族の誰でも食べることができる。2つのカレーを作る場合よりも、ロスが少ないんだ。

ね。もうパーソナリティやってるじゃん。

今日も読んでくれてありがとうございます。このテーマで語りだすと長いんだよなあ。まだまだ考察したり無い気がするし。個食問題もあるし、コミュニケーションや食文化、伝統、多民族が暮らすようになったり、自然環境の変化があったり。切り口はまだまだ多い。ということで、今日はここまで。思いついたときに、また書くことにしよう。

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