今日のエッセイ-たろう

サスティナブルな産業ってどうすればいいの?① 2025年5月21日

サスティナブルという言葉が使われるようになって随分と時間が立つけれど、一般社会で当たり前のように聞かれるようになったのは近年のこと。一時期、SDGsの講習を受けてスーツにピンバッジをつける人が急増したことがあった。多分あの頃からだろう。関心を持つことは良いと思うのだけれど、ピンバッジはファッションになってしまいそうで、当時のぼくはちょっと冷めた目で見ていたな。

食のサスティナビリティを考える人が増えてきているらしく、とても良いことだと思う。かつては食べきれないほどの大量の料理が並ぶことが贅沢で豊かさの象徴だったけれど、それは歴史上の一時期のトレンドだった。やっぱり、適切な量というのがあって、豊かさっていうのはそういうことじゃないよねという感覚が戻ってきた。

ただ、社会の仕組みは大量消費時代に作られたものがほとんど。だから、個人がいくら頑張ったところで「大量生産大量消費」のサイクルから容易に逃れることはできない。その影に隠れた「大量廃棄」は、やっと近年になって問題視されるようになってきた。

ホントはね、コンビニの弁当が売り切れたって良いわけだよ。あらゆる飲食業は、食材がなくなったら売り切れってなるの。だけど、それだとビジネスとしては機会損失になるから、売り逃さないようにしたいわけ。で、結果として余ってしまう。服なんかとは違って、翌日に持ち越すわけにもいかないから廃棄せざるを得ない。なかなか、難しいところではある。料理屋の矜持としては、「売り切れちゃったのかぁ。じゃあ、また明日来るよ。今度は売り切れる前に早めにさ」って言ってもらえるようにするのが良いんじゃないかな。ほら、欲望を先延ばしにできるのが人間だって、どこかの哲学者が言っていたじゃない。

そういえば、アパレル業界も少し変わってきた。少し前なら、結構大量の「季節外れ」が大量にセールになっていた。まだ春の陽気だというのに、すでに春物がセールになっていたりして。春物の新作は冬の間から始まっちゃうからそういうことになるのだろうか。ストックの4割近くがセール品になることもあったらしく、その分だけ定価に上乗せされていたと聞いたことがある。ホントかどうかは知らないけれど、だとしたらブルシット・ジョブならぬ「ブルシット・システム」だ。

ファッション業界は、環境汚染産業第2位。1位の石油に続いての2位であるから、これはかなりのインパクトが有るということだ。原因はいくつかあるのだけれど、一つは大量消費大量廃棄だし、複雑に長く長く伸びたエコシステムだ。

原料となる植物や石油の調達。それを購入して繊維に加工する紡績業。染色する工場を経て、布になり、それから服として縫製される。これらの分業工程が、特定地域に集約されているのではなく世界中に分散していて、更に売り先は別の国。シンプルにモノの移動コストも大きそうだ。確か、日本で販売されている衣料品の98%は海外からの輸入品だったのじゃないかしら。

分業すると、特定技能は向上しやすいし、コストパフォーマンスも良い。つまり、現代の資本主義社会にとっては最適解である。このシステムのお陰で、ぼくらはスーピマコットンという高級な綿で作られたTシャツを千円そこそこで買うことが出来る。20年前だったら、1万円以上するのが当たり前だった。良い商品を安く手に入れられるようになったのだから、確実に恩恵を受けている。

素晴らしいエコシステムではあるのだけれど、関わるプレイヤーが多くて、なおかつ取り扱う量が多いと変更が難しいのも事実。システムを変更しなくちゃいけない場合は、全体の調整が必要になるけれど、調整すべき対象が多いから大変だ。それに、もし衣服の消費量が30%減少したら、世界中で経済的なパニックが起きるかもしれない。既得権益と言われるけれど、大きなシステムの場合は、ちょっとでも崩れると世界経済に影響を与えるのだから、そうそう簡単には変われない。それに、それぞれの企業だって自社を維持したいだろうし、そこで働く人にとっては急に会社がなくなったら困るわけだ。規模の経済は、安価にモノを生産して流通してくれる強さを持つけれど、強さゆえに変わりにくいという弱さも持っていると言えるのかもしれない。

これは、アパレルに限った話じゃないのだろうな。長く長く伸びたエコシステムが複雑性を帯びてくると、環境負荷が高くなる上に柔軟性を失う。そういう視点で観察することも必要なのだろうと思う。どちらも知っておくことが大切ってところかな。

地産地消運動というのがあるけれど、あれは地域経済の視点だけじゃなくて、柔軟性の担保にも貢献しそうだ。だからといって鎖国的な経済圏を作るのじゃなくて、大きなエコシステムと小さなエコシステムの両方をバランスよく兼ね備えるのが良いのだろう。なんの根拠もなく直感ではあるけれど、小さなエコシステムのサイズはかつての藩くらいが良いのじゃないかと想像している。誰か試算している人っていないのかな。

あと、大量廃棄だよね。とにかく消費のサイクルが短くなっている。買って飽きたらすぐ買い替える。買い替えるからどんどん売れる。家には着用されない服が溜まっていって、平均35着はあるらしい。どんどん捨てるからどんどん売れるし、おかげで安くなる。なんだか違和感があるよね。捨てなかったら売れないのじゃないか。これ、有名なスピーチを思い出す。

世界一貧しい大統領と呼ばれて有名になった、ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領の2012年の国連でのスピーチだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。長くなったので明日に続きます。サスティナブルな社会って、持続可能な成長って言う意味じゃないんだよね。豊かな社会を持続することが可能な範囲で活動を行う社会ってことでしょう。随分前に利己的な遺伝子っていう本を読んだんだけど、生き物って自分の生存のために利他的な振る舞いをするものだって書いてあった気がする。なんだか、ふと思い出してしまったよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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