歴史のない町なんて無い。教科書には載っていないだけで、どの町だって現代に時を重ねてきた。「歴史」というより、「物語」と言ったほうが言葉の座りが良いかもしれない。物語を知って、面白いと感じるかどうかは
人それぞれ。戦国時代のような乱世の物語を面白がる人もいるだろうし、ちいさな宿場町の日常風景を面白いと感じる人もいるだろう。
物語が面白いかどうかは、“内容”と“伝え方”で決まる。例えば、食の歴史は面白いと感じる人にとっては面白い。だけど、興味のない人にとっては面白くない。当然だ。だから、ぼくの語りが面白くなければ、興味の薄い人には届かない。
つまり、観光資源としての歴史を活かすなら、どう伝えるかがポイントになる。
あらゆる人に響かせようと思ったところで、それは無理な話。そもそも、歴史に興味が持てない人だっているんだから。ただ、旅先のひとつのエンタメとして楽しんでもらえるくらいの仕掛けはあっても良いだろうとは思う。それが出来ていないのは、町の観光に関わっているものとして、ちょっと耳が痛い話ではある。
お城や城下町、遺跡などの史跡は、面白がり方がわかりにくい。歴史探訪が好きな人にとっては面白いんだけど、初心者にとってはマニアックすぎる。特に「この部分は知っているよね」という前提が、かなり先に進みすぎている気がするのだ。さすがに日本で生まれ育った人ならば徳川家康くらいは知っているだろうとは思う。学校でも習うし、大河ドラマをはじめとしていろんなエンタメ作品に登場する。むしろ、知らないという人がいたらびっくりしてしまう。だけど、その配下の武将について知っている人はかなり少数派になる。
史跡の案内板に「◯◯という武将の配下で参謀を務めた□□が築いたとされる城」なんて書かれていても、「へぇ〜」とはなるが、「で、誰?」ってなるのだ。
町に物語があるように、人にも必ず物語がある。有名になって目立った痕跡を残した人物もいれば、地味だけど着実に物語を編んできた人もいる。むしろ、後者のほうが多いだろう。そうした物語を丁寧に伝えることが、もしかしたら史跡を面白くするきっかけになるかもしれない。
だから、地方の観光行政は大河ドラマのテーマに一喜一憂するのだ。“伝える”の部分を、大河ドラマが担ってくれるから。他力本願であることは多くの人が気がついているだろう。“伝える”を大河ドラマに丸投げ…というと言いすぎかもしれないが、かなり頼っていると言える。
一人の人物に拘る必要はない。群像劇だって十分に面白い。一度、試しに掛川市にある城を巡る攻防についてYouTubeで公開した動画(歴史が苦手な人に伝える「掛川三城物語」https://www.youtube.com/watch?v=2SRF7KL_WOI)がある。
聞き手である弟が、人物名を出すととにかく混乱するものだから、なるべく流れだけを解説したものだ。ぼくが、「史跡の何を見てどんなふうに面白がっているのか」を抽出して喋ったつもり。再生数が伸びていないところを見ると、まあ、世の中的にはあまり求められていないのかもしれない。でも、面白がりポイントを伝える実験としては成功したと思っている。なにしろ、歴史が苦手な弟が面白いと思うようになったから。
教養っていうのは、あればあるほど世界が面白く見える。って、誰かが言っていたけれど、その通りだと思う。お金もかからないし、特別なことをしなくてもいい。そのへんに転がっている“アタリマエ”をエンタメとして楽しめるようになるのだから、こんなに安上がりなことはない。弱点は、学ぶのに時間がかかることと、脳の負荷が高いことだ。だから、ビジネスとしての観光を盛り上げていこうというのであれば、少しくらいは歩み寄ると良いと思う。つまり、“伝え方”を工夫すること。
今日も読んでいただきありがとうございます。映画館でパンフレット売っているよね。別にあれを読まなくたって、映画そのものは楽しめる。そういうふうに作られているから。ただ、ちょっと補助としてのパンフレットがあると、もっと映画を楽しめる。エンタメのためのエンタメですら工夫しているんだから、歴史をエンタメとして表現するなら、それ以上の工夫が必要なんだろうな。