今日のエッセイ-たろう

職場体験について思うところ。 2022年11月15日

毎年恒例の職場体験。ぼくが参加するのではなく、中高生の受け入れだ。コロナ禍では中止になった企画も、少しずつ再開されている。ホントは、今日も受け入れ予定だったのだけれど、2ヶ月前に出張の仕事が入ったのでキャンセルさせてもらった。さすがに泊りがけで県外へ連れて行くわけにもいかない。

ぼくらが中学生や高校生の頃にも職場体験というものがあったのかな。少なくともぼくは経験がない。3日間も学校じゃないところへ行って、普段とは違う生活を送るのだ。どんな気分なのだろう。子どもたちの話を聞くと、千差万別らしい。みっちり仕事をすることもあれば、ずっと見学していることもある。なかにはお客様扱いのところもあるらしい。もはや体験ではないよね。

うちの店では、基本的にしっかり仕事をしてもらう。もちろん手加減はするし、なるべく調理に携われるようには工夫をしている。けれども、調理だけが飲食店の仕事ではないからね。庭掃除も部屋のセッティングも、調理器具を洗うのも、全部が仕事。だから、そういったこともみっちりと体験してもらう。で、まかせっきりにするわけにもいかないから、一緒にやるわけだ。そこで、指導もするし会話もする。時々は説教くさくもなる。うんざりするかもしれないけれど、ぼくらの仕事に対する姿勢をちゃんと伝えなければ意味がない。だって、子どもたちが体験だと思ってやっている作業は、そのままお客様に提供される商品なのだ。真剣さを理解してもらわなければ困るし、子どもたちのためにも伝えたほうが良いだろう。

何年もやっていると、いろんな子どもたちに出会う。で、少し気になることもある。大人と比べて経験値が少ないのは致し方ないのだが、少なすぎる子がいるのだ。掃除、洗濯、食器洗い、調理、なんでも良いのだけれど、家庭での仕事に関して全く手を出したことがない。なんだか多い気がするんだよ。比較対象が少ないからなんとも言えないけれど、年々低下しているように見える。実際のところはどうなのだろう。

ぼく個人の経験と比べるのは無茶だ。中学高校になるころには、勝手にご飯を作って食べて洗って片付ける、くらいのことはやっていた。それは、そうせざるを得なかった環境だったから。両親が親方と女将をやっていると、夜はそうなる。だから、いろんなことを感覚的に捉えていくことになる。学ぶというよりも、体験から学習していった感じかな。

こういう経験って、もう少しあっても良いのじゃないかと思うんだ。たしかに、家族がご飯を作ってくれるのだから、自分が料理をする必要もない。それに、家族に作ってあげるという行為は一大イベントになってしまう。注目されてしまって面倒くさいかもしれない。でもさ、ちょっとくらいは経験してても良いんじゃないかな。

ネギって青いところも食べられるんですか?も、もちろん。

そんな、ちょっとびっくりするような話もある。家では食べないのかな。

庖丁の使い方を知らないのはしょうがないかも。それにしても、刃物の扱いが下手すぎやしないかい。庖丁を上手に使いこなせっていうのじゃなくてさ。どういう角度で差し込んだらどうなるか。これは、カッターナイフでも工作用小刀でも一緒。工作の時間とか無いのかなあ。教えてもらっても良いんだけど、経験によって掴む感覚というのがあるようなきがするんだけど。

その料理を作るときは、こういう手順でやる。といったことは、あまり伝えない。レシピブック程度には伝えるけれどね。ボールをこっちにおいて、ザルはここ。みたいなことは言わないよね。どこに道具を置いたら無理がなく作業ができるか。そういう部分は、自分で工夫するクセをつけてほしいから。だって、そんなことは社会に出たら教えてくれないから。それに、学校生活の中でも自分で工夫しなくちゃ。スポーツだってそうじゃないかな。自分で工夫するクセを付けておいたほうが、断然便利な気がするんだけどね。

エビの殻をむいて、背わたをとって、切れ目をいれてまっすぐに伸ばす。テンプラのエビの下ごしらえ。1尾ずつ処理するのか、それとも先にまとめて全てのエビの殻をむいてしまうのか。そういうこと。最初から気がつかなくたって、作業しながら考えてみたら良いの。どうせ、初めてのことなんだから一度やってみないとわからない。3日めにもなると、勘の良い人は自分なりに効率の良い解決策を導き出すよね。

こういうことって、座学じゃないと思うんだ。だから、職場体験みたいなものがあるのかもしれないけどさ。それにしても、もうちょっと家でも出来るんじゃないかな。体を使った経験から学べることも多いでしょう。そして、そういった経験による知は、勉学にもスポーツにも仕事にも通じることが多い。そういう意味で、子どもたちには家庭の仕事を手伝ってもらって、工夫するクセを身に着けていったらいいと思うよ。

今日も読んでくれてありがとうございます。たった3日で何かが変わるかというと、そんなこともないだろう。だけど、折角の機会だから、彼らの視点が変わるきっかけにしてもらえたら嬉しい。おっちゃんたちは、いろんな思いを持って仕事してるんよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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