今日のエッセイ-たろう

「面白さを感じるため」に必要なものは?

子供の頃から「歴史物語」は好きだった。というほどのことはない。そもそも、小中高と通じて歴史科目は苦手だった。オモシロイと思ったことがない。きっと、日本史も世界史も、ちゃんと先生の話を聞いたら面白いのかもしれない。そういえば、高校時代の世界史の先生は、楽しそうに古代ローマを語っていたな。あと、コンスタンティノープル陥落の話だっただろうか。当時の授業内容は全くおぼえていないけれど、先生が楽しそうだったのは覚えている。

今になってもったいないことをしたなと思う。おとなになって学び直すと、物語としてとても面白いのだ。巨大な城壁を乗り越えるために繰り広げられた戦闘や、工夫や、人々の思いの錯綜。どの切り口でも面白い。映画で見たら楽しそうだ。

けれど、面白く感じられなかったのはなぜだろうか。当時の自分の感覚を思い出すには時が経ちすぎてしまった。想像してみるしか無いか。

時間が短すぎたのかもしれないな。ホントは、教科書に書いていない部分に面白いことがあるのかもしれない。実際にそうだろうし、先生も知っていたのかもしれない。ただ、1年間のカリキュラムの中で世界史に当てることが出来る時間数は限られている。限られた時間内にゴールまでたどり着かなければならないとしたら、どうしても駆け足にならざるをえない。本筋とは関係のない部分は削ぎ落とされる。

本筋とは関係ないのだから合理的といえば合理的なのかもしれない。けれども、それはあらすじだけを読み続ける物語のようなものだ。海賊王と呼ばれたロジャーという男がいた。ロジャーは海軍に処刑された。とある島にルフィという少年が生まれた。ロジャーが残したとされる財宝を探し数人の仲間を得て海に出た。というのは、漫画ワンピースのあらすじだ。教科書に比べれば、これでも細かく書いたくらいだが、これで面白いと感じるのは無理がある。読んだことがある人は、既に頭の中にたくさんのストーリーが展開されているだろう。けれど、全く知らない人にとってはどの様に感じるのだろう。というのが、歴史の授業を面白く感じられない原因のひとつだろう。

もうひとつ思いついた。本筋というのは何かを考えていて思いついたのだ。学生にとっては、テストは日常の一部だ。感覚としては、テストのために授業を受けているし、勉強しているという状態だったかもしれない。興味を持って学んだ。というのが先行していて、その知識量をはかるためにテストがあるのが本来の姿だとは思うのだけれど、実際のところはそうじゃないだろう。「ここ、テストに出るぞ」という先生のセリフに、それがよく現れている。

つまりだ。学生にとっての「本筋」というのは、「テストで良い点が採れる」ことだったのかもしれない。テストで得点につながらに部分は、全て蛇足。もしかしたら、学生時代のほうが今よりもずっと合理的で、効率重視の時間配分を行っていたのかもしれない。そうだとすると、歴史というものに面白さを感じられないのも無理からぬことであったのかもしれない。なぜなら、歴史物語の中で面白いと思える話は、だいたいテスト問題にならないからだ。じゃあ、おもしろエピソードをテスト問題にすれば良いかというと、それも考えものかもしれない。テストこを時間に制約がある。全体のなかの鍵になるポイントだけを試せばよくて、それが理解できているのなら全体像も把握できているだろうという前提がある。要約しまくったのがテストなのだろう。

子供の頃に、最初に興味を持ったのは「お城」だった。背景も物語も関係ない。レゴなどのブロックで何かを作ることが楽しいというのは、多くの子供達に共通する遊びだ。その延長上で、ガンダムや戦車や車のプラモデルに手を出し、かっこいい建造物の代表として日本の城のプラモデルに手を出した。ただそれだけのことだった。

お城そのものも興味はあったのだけれど、気がつくとコレクションが始まった。少なからず収集癖があったようで、お城シリーズをコンプリートしたくなったのだ。姫路城や大阪城、名古屋城、小田原城といった有名所からだんだんと数は増えていって、そのうちに部屋に収まらなくなったほどだ。

そうこうしているうちに、お城の特徴を覚えてしまう。なにせ、ひとつのプラモデルを仕上げるのに何日もかかるのだ。それだけの日数を、一つの城と向き合う時間に使っているのと同じである。複数の城と向き合い続けているうちに、特徴がわかるようになる。で、最終的には築城した城主のことや、その特徴にまで興味が湧く。なんで安土城がど葉でなのか。それはね。織田信長という人がね。という具合だ。

そうそう。お城について残念なことがあることを知った。現存する天守閣は12で、それ以外は復元なのだけれど。復元天守のなかに、史実とは無関係なものが含まれていることだ。最上階のテラスのような部分が無い天守も少なくない。けれども、観光客のために存在しなかったはずのテラスを作ってしまい、窓がなかった部分に大きな窓を作ってガラスをはめ込んだ。内部が鉄筋コンクリートなのは百歩譲って良いとしても、外観すらも本来の姿ではなかったというのだ。そもそも、天守閣が存在していない城も、観光客を呼び込むために天守閣を作り上げてしまったという例もいくつかある。

観光のため、というのはわからなくもないのだけれど、知らない人が見たら事実を誤認してしまうかもしれない。実際、ぼくがそうだったしね。もう少し、史実に寄り添っても良いのじゃないかと思う。無理やり派手に演出するために嘘を練り込むのじゃなくてさ。史実の面白い部分をピックアップして、それを飾り付けるくらいの演出にしたら良いと思うのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。面白さというのは、案外こぼれ話の部分にたくさんあるものだ。それに、語り部のスキルによって面白さが変わってしまうこともある。削ぎ落としすぎず、盛りすぎず。それでいて、ちゃんと面白いという加減が難しいところなんだろうな。たべものラジオのパーソナリティとしても、考えさせられる。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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