今日のエッセイ-たろう

「知っている」と「使える」は別のこと。 2023年12月20日 

たべものラジオの原稿やブログは、こうして思いついた言葉をキーボードを叩くことで文字に変換してくれる。誤変換に気がつかずにそのまま掲載してしまうこともあるけれど、それでも読み返してみれば間違いに気がつくことが出来る。その漢字の用法が違うというくらいの知識はあるわけだ。

経験のある方も多いと思うけれど、読める漢字と書ける漢字は別物だ。きっと英単語でも同じなんだろうな。読めるけれど正確なスペルを思い出せない。そんなことがありそうだ。調べ物をしたり、台本を書き起こすときには手書きにしているのだけれど、読めるのに書けない文字が多いことに愕然としている。「愕然」という文字だって、すんなり読んでいるけれど、書こうと思ったら、きっと書けない。

語彙力って、どちらに依存しているのだろう。理解できる言葉の量なのか、それとも使いこなせる言葉の量なのか。理解できる言葉が500で使いこなせる言葉が100の場合と、理解できる言葉が300だけど、使いこなせる言葉が150の人。なんとなく後者のような気がするんだけどね。どうだろう。

表現をするときに、あまり難解な言葉をたくさん使うのも考えもの。誰に伝えたいか、にもよるんだろうけど。本を読んでいて、語彙力や基礎知識が足りなくて苦労することがある。それは、シンプルにぼくのスキル不足。専門書などは特に顕著だ。たべものラジオという番組の特性上、難解なことをなるべくわかりやすく噛み砕くことが求められるから、難しい単語ばかりを使ってもしょうがない。まぁ、ぼくの語彙力では難しくなりようがないのだが。

そう言えば、松尾芭蕉が晩年頃に「軽み」が大切だと言っていた。和歌のカウンターカルチャーとしての俳句(俳諧の発句)が成立した瞬間。和歌ってさ。結構難しい言葉も使われるし、なにより先人たちの歌や出来事などを踏まえたもの。それらを知らなければ、なんのことを表現しているか分かりにくいという側面がある。まぁ、それが教養ではあるのだけど。

芭蕉は、この文脈に乗っていながらも、適度に距離を取ったのかも知れない。なるべく平易な言葉を使って、誰でもわかるようにした。それでいて、豊かな情景をたった17文字の中に折り込む。こうして書き出してみると、とんでもないことをやっているのだと改めて思う。古池や蛙飛びこむ水の音。わからない言葉がどこにも登場しない。

「軽み」に到達する前、古典的な和歌の文脈に則った歌を詠んでいたらしい。ちゃんと歌人だった、というと変な言い方だけど、イノベーションの前には型通りのスタイルだったというわけだ。語彙力も豊富なのだろうと想像する。理解できる言葉も使いこなせる言葉もとても多い。そういう状態から紡ぎ出される平易な表現。

平易な表現に終止するのであれば、わざわざ語彙力を高める必要はなさそうな気もするのだけど、どうなのだろう。なにか違う気がする。数多くの同義語があって、それぞれにちょっとずつニュアンスが違う。豊富なニュアンスの違いを使いこなせる状態になってから、それを簡単な言葉で表していく。豊富なニュアンスの言語化というところで語彙力が生きてくるのかも知れない。

いろんなバリエーションで煮物を作るようになっていくと、ほんのちょっとした「さじ加減」がわかるようになってくる。食材、出汁、調味料などの組み合わせで膨大な種類の煮物ができる。それらを自在に美味しく作ることが出来るようになったら、最終的にふろふき大根が美味しくなる。ということがあるのか、よくわからないが、芭蕉に無理やりなぞらえればそういうことになるのだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。子どもたちが幼稚園や学校などで新しく知ったことを紹介してくれる。難しそうな言葉を使って喋ってみる。きっと「理解できる」を「使える」に移行させるステップなのかもね。ちゃんと驚いて、ちゃんと聞くようにしよう。

タグ

考察 (300) 思考 (226) 食文化 (222) 学び (169) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (105) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 言葉 (9) 循環 (8) 価値観 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) エンターテイメント (4) 自由 (4) 味覚 (4) 言語 (4) 盛り付け (4) ポッドキャスト (4) 食のパーソナライゼーション (4) 食糧問題 (4) 文化財 (4) 学習 (4) バランス (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) イノベーション (4) 伝承と変遷 (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) チームワーク (3) 感情 (3) 作法 (3) おいしさ (3) 研究 (3) 行政 (3) 話し方 (3) 情報 (3) 温暖化 (3) セールス (3) マナー (3) 効率化 (3) トーク (3) (3) 民主化 (3) 会話 (3) 産業革命 (3) 魔改造 (3) 自然 (3) チーム (3) 修行 (3) メディア (3) 民俗学 (3) AI (3) 感覚 (3) 変遷 (3) 慣習 (3) エンタメ (3) ごみ問題 (3) 食品衛生 (3) 変化の時代 (3) 和食 (3) 栄養 (3) 認知 (3) 人文知 (3) プレゼンテーション (3) アート (3) 味噌汁 (3) ルール (3) 代替肉 (3) パーソナライゼーション (3) (3) ハレとケ (3) 健康 (3) テクノロジー (3) 身体性 (3) 外食産業 (3) ビジネスモデル (2) メタ認知 (2) 料亭 (2) 工夫 (2) (2) フレームワーク (2) 婚礼 (2) 誕生前夜 (2) 俯瞰 (2) 夏休み (2) 水資源 (2) 明治維新 (2) (2) 山林 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 科学 (2) 読書 (2) 共感 (2) 外食 (2) キュレーション (2) 人類学 (2) SKS (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 思い出 (2) 接待 (2) AI (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) 伝え方 (2) 旅行 (2) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) 心理 (2) 才能 (2) 農業 (2) 身体知 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 合意形成 (2) 儀礼 (2) (2) ビジネススキル (2) ロングテールニーズ (2) 気候 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 食料流通 (2) 食材 (2) 流通 (2) 食品ロス (2) フードロス (2) 事業 (2) 習慣化 (2) 産業構造 (2) アイデンティティ (2) 文化伝承 (2) サスティナブル (2) 食料保存 (2) 社会変化 (2) 思考実験 (2) 五感 (2) SF (2) 報徳 (2) 地域 (2) ガラパゴス化 (2) 郷土 (2) 発想 (2) ビジョン (2) オフ会 (2) 産業 (2) 物価 (2) 常識 (2) 行動 (2) 電気 (2) 日本酒 (1) 補助金 (1) 食のタブー (1) 幸福感 (1) 江戸 (1) 哲学 (1) SDG's (1) SDGs (1) 弁当 (1) パラダイムシフト (1) 季節感 (1) 行事食 (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

-今日のエッセイ-たろう