今日のエッセイ-たろう

地引網と漁村のつながり。 2024年8月1日

掛川に地引網漁保存会というのがある。年に10回程度地引網体験を企画しているのだけれど、天候に左右されることだからなかなか実施できないでいる。10年くらい前は、2回に1回くらいは実施できていたらしいけれど、今年はまだ1回しか実施できていないでいる。風が吹く、雨が降る、大水が出る。晴れていても沖合のゴミが多かったら船を出すことが出来ない。なかなかシビアだ。

地引網のルーツは紀州に有るらしい。ちゃんと調べていないのだけれど、そんな話を聞いた。地域によって向き不向きが有るのは、浜辺と沿岸の地形による。そもそも海底に岩がゴロゴロしているようなら網が引っかかって敗れてしまうのだ。大きな網を使えば一度に大量の魚をとることができるけれど、遠浅の海が横に広がっているような地形でなければならない。そして、大量の魚を売りさばく市場が必要だ。

有名な九十九里浜の大地引網では、200人以上の人員が必要になるそうだ。一般的には30数名程度らしい。掛川の場合は100人程度。中規模というところだろうか。地引網体験の参加者を募集するとあっという間に定員に達するのだから、100名以上の人たちが関心を持ってくれているということだ。ありがたい。

地引網というのは、上記の情報で分かる通り大量に魚を獲得する方法である。一本釣りから沖合の網漁と比べて、一度に多くの魚を手に入れられるメリットが有る。江戸時代の田舎では、江戸のような都会が近くにないので保存食となったのだろう。詳細に調べないと正確なことは言えないけれど、このあたりで地引網が行われていたということは、それなりの人口がいたということと、イワシやサバを煮干しにしていということが言えそうだ。鯖節や煮干し。このあたりの出汁文化は青魚が主流である。静岡県を代表する郷土料理の一つにとろろ汁があるけれど、掛川周辺は鯖出汁を使用していて、なおかつ鯖の身をいれたとろろが古くから一般的だったそうだ。

芋をすりおろし、鯖出汁の味噌汁を入れて伸ばしていく。静岡市辺りでは鰹出汁になる。こうして出汁で伸ばす文化が静岡県のとろろ汁の特徴である。

漁業というのは、農業以上に天候に対してシビアだというように見える。もちろん、干ばつや冷夏などの災害は農業に大きな影響があって、漁業はさほどではないのかもしれない。シビアというのは、時間軸がとても短いからかもしれない。いつ漁に出られるかわからないし、漁に出たとしてもどのくらい捕れるかわからない。たくさん捕れたら、それはそれですぐに販売するなり保存食に加工しなければならない。強弱の振れ幅が大きそうだ。という意味である。

こんな状況だと、日頃の付き合いが大切になるのではないだろうか。毎日ちょっとずつ共同作業をするというのではないけれど、いざというときには沢山の人達が集まって地引網を引かなければならない。なにしろ100名単位である。普段はそれぞれに小舟で漁をしている人、畑を耕している人、機織りをしている人。彼らを一斉に集めて地引網を引く。現代に置き換えると、普段は全く別の仕事をしている人たちが、前日か当日になって招集されるようなものだ。はたしてそんなことが可能なのか。

現代とは大きく社会構造が違うのだろう。どこがどのように、となると詳細に調査をしてみないとわからない。ただ、想像できるのは、日頃の繋がりが深いのだろうとは思う。咄嗟のときに、すぐに連携できるだけの連帯感が存在している。関係があるかどうかはわからないが、台風や地震などの影響で大波の被害にあいやすい環境では、それが命を守るために必要だったのかもしれない。

今日も読んでいただきありがとうございます。どんな社会構造がこうした連帯感を醸成していたのだろうな。現代の社会に合わせて、地縁をリデザインするとしたら、田舎の漁村にヒントが有るかもしれない。なんてことを思った次第です。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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