今日のエッセイ-たろう

「一物一価の法則」と矛盾する価値観。 2023年3月18日

砂糖のような世界商品は、ある程度共通の価格で安定すると言われる。経済学における「一物一価の法則」というやつだ。自由経済市場で、なおかつ同一の市場で同一時点ならば、自然と価格は一定に定まる傾向にあるという。

売り手が複数あって、そのうち誰かが安く提供したとする。小さな町とかバザールとか、そういったところで同じ商品が違う価格で販売されているとしたら、それは一番安いところに消費者が集中するだろう。他の店が売れなくなるので、結果的に一番安い価格に統一されることになる。というのである。神の見えざる手と似たような話だけど、必ずしも成立するわけじゃないが、まぁだいたいそうなるよね、という話。

そのためには、自由競争が可能なマーケットであることが前提である。それから、情報も同時に流通していなくてはならない。じゃないと、知っている人だけが得をするという形になって、それで着地するからだ。情報の非対称性があるところでは実際に価格は一つに定まらない。

例えば、海外旅行客と現地の人が同じホテルに宿泊するとして、その価格設定が同じではないことがある。日本語で表示されているサイトでは、現地価格よりもずっと高くなっているケースが有る。現地語を読めるかどうかということで、情報に非対称性が生まれていると言える。

一物一価の法則については、深く触れないが、少し気になっているのが上記の例。一般的にボッタクリと感じてしまうこの現象が社会のなかで機能していることがある。しかも、それは想像以上に大きなマーケットで動いているように見えるのだ。そうでなければ、ホテルの価格比較サイトが成立するはずがない。購入するサイトによって価格が異なることには、なにかしらの要因と効果があるからではないだろうか。

価格設定者の気持ちになって考えてみよう。ホテルの従業員にとって、時として「外国人」は面倒だと感じることがあるかもしれない。差別ではなく、実際の業務量が変わるという意味においてだ。まず、シンプルに言語の壁がある。受付からルームサービスまで、母国語が通じないとする。たとえば、英語を話すことが出来るスタッフくらいは雇用しなくてはならないかもしれない。そこには確実にコストが発生する。表示を多言語化する必要があるだろうが、それもコストの掛かることである。

コストというとお金のことに意識が向くのだが、人的なコストも馬鹿にならない。時間や労働力、精神的な負荷も含めればそういうことになる。日本人同士であれば、「常識」という社会通念によって共有知がある。それに立脚したサービスが存在している。しかし、異なる文化で生きている人にとっては、それが常識ではなく特別なことになる場合もある。もちろん、その逆もある。この「常識」の「ギャップ」は、それを埋めるためのコストが発生するだろう。

対応としては2つ。どんな文化圏の人でも共有できるサービスを構築して、共有できるように様々な工夫を凝らすこと。もうひとつは、おなじ常識が通じる人だけに来てもらうようにすることだ。

ここに、もうひとつの価値観が見えてくる。サイトによって宿泊価格を高く設定する場合には、そのサイトを利用する客層にはあまり来て欲しくないという価値観。税金でもなんでもそうだが、行動をコントロールする際には支払金額を高く設定することで制限することがある。タバコの税率を引き上げることで喫煙者を減らそうというのと同じである。

オンライサロンなどのコミュニティでも、月額の会費が高く設定されている場合がある。それは、「その金額を払ってでも参加したいと思う人」を選別する行為だ。これによって、コミュニティ内の平和や質が維持できることがあり、何の違和感もなく受け入れられる仕組みである。

さて、同じ商品でありながら価格が異なることについて、どのように解釈したら良いのだろうか。場合によっては、それを用いることで良い経済の仕組みを作ることも出来るかもしれない。そんな可能性を考えていきたい。一物多価。直感的には、ここに観光や食の可能性がありそうだと思っているからだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。またもや長くなってしまった。しょうがないから、続きは明日にしようかな。一物一価ではない経済の仕組みについて、もう少し深く考察してみようと思うんだ。なんとなくだけど、ぼくらの日常に潜んでいながらも直感に反する価値観にヒントがあるんじゃないかと思ってね。もし、意見や感想などがあれば、ぜひコメントをしてもらえると嬉しいです。

タグ

考察 (297) 思考 (225) 食文化 (220) 学び (168) 歴史 (123) コミュニケーション (119) 教養 (104) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) コミュニティ (11) 日本文化 (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 循環 (8) 価値観 (8) 言葉 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) 文化財 (4) 味覚 (4) 食のパーソナライゼーション (4) 盛り付け (4) 言語 (4) バランス (4) 学習 (4) 食糧問題 (4) エンターテイメント (4) 自由 (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) 伝承と変遷 (4) イノベーション (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) トーク (3) マナー (3) ポッドキャスト (3) 感情 (3) 食品衛生 (3) 民主化 (3) 温暖化 (3) 健康 (3) 情報 (3) 行政 (3) 変化の時代 (3) セールス (3) チームワーク (3) 産業革命 (3) 効率化 (3) 話し方 (3) 和食 (3) 作法 (3) 修行 (3) プレゼンテーション (3) テクノロジー (3) 変遷 (3) (3) 身体性 (3) 感覚 (3) AI (3) ハレとケ (3) 認知 (3) 栄養 (3) 会話 (3) 民俗学 (3) メディア (3) 魔改造 (3) 自然 (3) 慣習 (3) 人文知 (3) 研究 (3) おいしさ (3) (3) チーム (3) パーソナライゼーション (3) ごみ問題 (3) 代替肉 (3) ルール (3) 外食産業 (3) エンタメ (3) アート (3) 味噌汁 (3) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) AI (2) SKS (2) 旅行 (2) 伝え方 (2) 科学 (2) (2) 山林 (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 誕生前夜 (2) フレームワーク (2) (2) 婚礼 (2) 料亭 (2) 水資源 (2) メタ認知 (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 工夫 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 明治維新 (2) 俯瞰 (2) 才能 (2) ビジョン (2) 物価 (2) 事業 (2) フードロス (2) ビジネスモデル (2) 読書 (2) 思い出 (2) 接待 (2) 心理 (2) 人類学 (2) キュレーション (2) 外食 (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) (2) 共感 (2) 流通 (2) ビジネススキル (2) 身体知 (2) 合意形成 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 発想 (2) 食料流通 (2) 文化伝承 (2) 産業構造 (2) 社会変化 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 報徳 (2) 気候 (2) (2) サスティナブル (2) 儀礼 (2) 電気 (2) 行動 (2) 常識 (2) 産業 (2) 習慣化 (2) ガラパゴス化 (2) 食料保存 (2) 郷土 (2) 食品ロス (2) 地域 (2) 農業 (2) SF (2) 夏休み (2) 思考実験 (2) 食材 (2) アイデンティティ (2) オフ会 (2) 五感 (2) ロングテールニーズ (2) 弁当 (1) 補助金 (1) SDGs (1) SDG's (1) 幸福感 (1) 哲学 (1) 行事食 (1) 季節感 (1) 江戸 (1) パラダイムシフト (1) 食のタブー (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

-今日のエッセイ-たろう
-, , , , , ,