今日のエッセイ-たろう

たべものラジオをビジネスに活用する思考の例。2022年11月22日

独自文化というのは、たぶんどの地域にもあるよね。日本国内にもたくさんあるし、世界中のいたる所にある。それぞれに違っていて面白い。だからこそ、観光で訪れることが楽しいし、面白い。それに、他の文化を知って、普段の生活の中で楽しむのも良いよね。

日本料理や日本の食品や食文化も、もちろん独自のものを持っている。インターネット上の記事を見ていると、日本が独自文化を持っていて、他の国はそうでもないような書き方に感じられる表現があるけど、そんなことはない。それぞれに違った文化文脈がある。もちろん、それぞれが独自のものだ。

色鉛筆がズラッと並んでいるところを想像してもらったらわかりやすいか。光のグラデーションでも良い。例えばヨーロッパの食文化だったら、それぞれの国は独自の食文化を持っている。色で言ったら、オレンジだったり赤だったり、エンジとかピンク。近い色だけど、やっぱり違う。そんなイメージ。これに対して、日本は青とかね。系統は似ているけれど、確実に別の色として認識できるはずだ。同じように見えてしまうのは、分類するだけの解像度を持ち合わせていないから。言語表現でもそうだけど、名前のついていない色は認識できない。というのに似ているかもしれない。

さて、こういった背景を踏まえた上で、だ。それぞれの独自文化は、他の文化圏から見ると興味深いものに見える。面白いし、良いものは取り入れていく。互いに影響し合うのは、日本の食文化の歴史を見るだけでもよく分かる。日本だけじゃなく、世界中の食文化は長い歴史の中で互いに影響しあってきたんだよね。

そして、それはビジネスになる。インドのスパイスも、ドイツのラガービールも、中国のお茶も、日本のスシも豆腐も。みんなビジネスで拡散していった。これは、いつの時代も同じだよね。いま、また新しい取り組みとして日本の食文化を世界に発信しようという動きが活発になってきている。日本だけではないけれど、良い具合に注目度が高いのだ。今が好機ということでもある。

ここまでは良い。でね。食文化の歴史を勉強してきて思うことがあるんだ。一番大切なのは、輸出先の文化をしっかり把握して、その文脈に沿って展開すること。伝播する。馴染む。変える。もっと馴染む。大雑把に言うと、そんなプロセスかな。

直近の事例だと、豆腐がわかりやすいかもしれない。

アメリカ発のハンバーガーでも良いかな。ま、豆腐にしよう。

今から25年くらい前。日本の企業がアメリカで豆腐の販売をするために市場開拓に乗り出した。森永乳業とハウス食品。日本で有名な食品メーカーだね。当初、売上は微々たるものだ。基本的にずっと赤字。それもそのはずで、購入していたのは一部の健康マニアや東洋文化に憧れを持つ人、そして現地に渡った日本人をはじめとする東洋人マーケット。つまり、市場が小さいのだ。

そこで、いろいろと苦労をしながら様々な工夫をして、地道に地道にコツコツと発信し続けた。はじめは、日本流の豆腐の食べ方ばかりを提案していたが、それでは駄目だということに気がつく。そして、アメリカ人の嗜好に沿ったアプローチをはじめたわけだ。戦略変更。で、やっと少しずつ市場に受け入れられるようになっていく。大統領夫人がメディアで喋ったことで、いっきに認知度は高まったのだけれど、それもこれも市場にジワジワと浸透させていたから。こういったことをしてなかったら、注目を浴びたところで打ち上げ花火にしかならない。熱はすぐに冷める。ある程度定着することが出来たのは、それまでのプロモーションのおかげだと思う。

ここまでは、本編のおさらいね。で、ここからだ。

現在、ビヨンドミートやインポッシブルフーヅなどのアメリカ発の企業が「大豆ミート」を発展させた「プラントベースフード」を世界に発信している。これが、驚異的に伸びているのは世界の食糧事情が関係しているのは周知の通り。ただ、こういった企業が登場するためには、「大豆を使った代替肉」という根幹の発想が必要だ。アップサイクルの観点からも理にかなっていたのだけれど、一方で豆腐という代替肉の前例が必要でもあった。

アメリカ社会において、確かに豆腐は広まった。近代以降の日本で主流になった柔らかい豆腐ではなく、本来の硬さを持った豆腐だったんだ。だから、代替肉としての認識が定着した。しかし、豆腐の味に慣れない人もいる。ぼくら日本人は、何代も続く食文化だから、疑問もなく受け入れているけれど、新しい食文化には慣れも必要なの。大豆臭さが気になる。これは明治期の日本人が牛肉のけもの臭さを嫌ったのと同じ現象。

だから、肉っぽい豆腐が必要になったんだ。豆腐という別の味じゃなくて、肉らしさが欲しい。それは、アメリカ社会が肉とじゃがいもを中心とした食文化を形成してきたから。世界でもトップクラスの牛肉消費国。日本人が味噌や米、出汁などといった味をアイデンティティーとして受け入れるように、彼らにとっては牛肉なのだ。

ここで思い出されるのは、中国人が発明したという「紅茶」の存在。オランダ東インド会社が東洋の神秘として売り出した「茶」は、最初から紅茶だったわけじゃない。詳細はわからないけれど、当時の上海で主流だった中国茶だっただろう。となると、当然発酵茶。プーアル茶だったりウーロン茶だったり。そういった類のもの。これが、一部のヨーロッパ人には受け入れられたが広まりは途中までだった。

それにはいくつかの理由がある。茶が高額で販売されたから貴族しか購入できなかった。長い船旅で品質が劣化していた。そして、味。もっとヨーロッパ人好みの味であれば、もっと売れるはずだ。どういうシチュエーションで消費されるのか、どのような文化背景なのか、どのような好みの傾向があるのか。これがわかれば、もっと広く定着してビジネスになる。

オランダ商人と相談したのかな。どうやって情報を掴んでいったのかはわからない。ただ、はっきりとした結果として「中国の茶商」がヨーロッパ人に合わせた「紅茶」を開発した、という事実がある。後の時代には、その利権を大英帝国によって奪われて、紅茶はインドやスリランカで生産されるようになった。しかし、紅茶は中国に大きな利益をもたらしたはずだ。

豆腐と紅茶を比較してみた。これは、現代の食ビジネスに置き換えて考えられる事例だろうと思う。豆腐が変形したあとの商品はアメリカ発。よくある事例だ。日本に入ってきた海外の食文化を日本人が魔改造する。同じことだね。魔改造レベルに至るには、それなりに長い時間がかかるだろうし、その国独自の文化を体感的に把握している必要があるだろう。それはもう、現地人にしかできないのかもしれない。だけど、その直前のステップまでは出来るはず。少なくとも想定することが出来ると思っている。

初手は日本オリジナルの食を展開する。ゴールは魔改造直前の商品を「相手の文化」として販売する。正確には「相手の国に定着した異国文化」かな。日本人が未だに餃子やラーメンを中国料理と認識しているようなものだ。この時、強いブランドをもった「本家」が経済的に活躍できるかは、そこまでの道筋を想定したかにかかっている。

で、「日本オリジナル」と「魔改造直前」の間をどう繋ぐかを考えるんだ。浸透していくステップを想定して、浸透させるためのプロモーションを行う。どんな指標が良いのかな。認知度が何%に達したら次のステップとか、販売数とか。その辺は実際にやりながらか。

今までの食文化の発信事業は、初手の段階をゴールに設定してきた。それはそれで良いと思う。それでうまくいく場合もたくさんあるのだから、うまく行っているなら変える必要はないよね。ただ、発信しているのにうまく広がっていかない「文化的商品」もあるよね。それは、そもそもの認知度の問題なのか、浸透の具合なのか知らないけれど。とにかく、それまでの手法ではうまくいかなかったということの証左になっている。

ならば手を変える。いろんな手法、アイデアがあるなかで、ぼくの提案は上記の通り。設定するゴールをもっと先に置く。そのための道筋を描いて、ビジネスを展開する。である。

今日も読んでくれてありがとうございます。たべものラジオをビジネスに活用するっていうのは、こんな感じかな。この発想のもとになった歴史事例は、すでに本編中で紹介したものばかり。だから、紹介していないハンバーガーは却下したのね。「食文化の広がり」という視点を置いて、各エピソードを俯瞰したときに、そこから何を抽出するかってことなんだろうな。ぼくは、こんな感じで解釈したんだ。きっと他の解釈があるはず。そこには、また別の新しい物語が生まれる種があるだろう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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