今日のエッセイ-たろう

歴史を紐解いて、進化生物学っぽく日本の国民性を探る。 2023年4月13日

江戸時代が始まって、半世紀ほど。農業生産性が向上して、その結果商業が発達したし、町人文化が花開いていった。

戦国時代という、いわば内乱が収まったことで、統治者たちは内政にに力を注いだのだ。他国の侵略から守ること、他国を侵略して富を得ること。それが止まったことで、その土地での生産性を高めなければならなくなった。こんな風に構造を書き出してみると、なんとなく現代と似ている部分があるようにも見えるが、まぁそれは横においておくとしよう。

元来、稲というのは誰がどんなふうに作っても、それなりに育つという植物だった。水稲栽培には、苦労が伴うものではあったのだけれど、とにかく「頑張る」の根性論でもどうにかなってしまう。そこから脱却して、より効率よく収量を上げていくようになったのが、江戸時代初期のことである。灌漑設備を整えて、肥料を開発していった。実験によって、どこにどの程度の肥料を与えれば、単位面積あたりの米の収量が増加するかを会得していったのだ。そうして、農業の世界に「上手い下手」という概念が現出した。

稲作が上手い人が耕作すれば、収量が多い。となると、下手な人は淘汰されることになる。いつまで経っても米の収量が上がらなくて、子供を育てることが困難だった世帯は徐々に減っていく。子供がまともに育たなかったからだ。これに対して、農業が上手な家庭は家族が増えて、放棄された土地を譲り受けて上手に農業を営んでいく。

この時代の農業では、丁寧で実直な作業こそが効果が高かったらしい。丁寧に雑草や害虫を取り除いて、肥料もその原料から丁寧に作り出していく。大雑把に肥料を撒き散らすのではなく、必要な場所にピンポイントで与えていく。こうした「真面目な人達」が、収量の多い農家となって、子孫を残すことができた。

真面目な人が多くの子孫を残すことができたから、真面目でない人たちが少数派になっていく。これが、伝統的な日本人の性質を形成したと言われている。文化の伝承というだけではなく、そもそも生物的に組み込まれている性質という側面もあるらしい。

田舎の方に行くと、ある特定の地域では同じ苗字の人ばかりということがある。それは、その家系が非常に真面目な農民一族であった可能性があるというのだ。

田畑は、江戸初期から重要な資産になっていった。その重要度が増していったのは、上記の背景があったそうだ。重要な資産は、多くの場合長男に引き継がれた。新たな土地を開梱したり、放棄地を受け取ることがあれば次男や三男にも農地を保有することがあったけれど、基本的には長男が相続することが多かった。しかし、長男ばかりが相続をするようになるのは、もう少し後の時代である。ドライに考えれば、もっとも真面目に農業に勤しんで、収量を増加させることが出来る人が相続することのほうが効率的だ。だから、出生の早い遅いではなく、なるべく優秀な人に全てを譲ることになる。ただ、それだと揉めやすいので、長男に引き継ぐということにしておこうという事になったようだ。

とにもかくにも、重要な資産を引き継ぐことは人の行動を左右するインセンティブになる。資産があれば、それだけで生活が安定するのは見えているからだ。農地を譲ってもらうために、上司である親の言うことを聞く。もしかしたら、そんな構造だったかもしれない。つまり、親や親方にしたがって生きていくという社会的な構造が、発生した。この生き方をした人たちが多くの子孫を残していって、そうでない人たちは淘汰されることになった。

江戸に出ていって長屋暮らしをしていた「その他の人々」は、多くが子孫を残すことなく消滅していったらしい。

社会にとって重要な資産である農地を守る農民が、重要な存在であることは間違いない。だから、下手に税率を上げることが出来なかった。一所懸命に働いても、そのほとんどを税として持っていかれるのであれば、やってられるかということになってしまう。土地を放棄して、他の土地に移動する優秀な農民もいた。優秀であれば、新たな土地では喜んで迎えられた。戦国時代は、そうした農民たちが多くいたという。

その反省から、農民を保護しながら縛り付ける政策が一般的になっていった。生活の安全や安定を藩が保証する。現代で言うところの生活保護や福利厚生である。その代わりに、一揆や強訴をするな、徒党を組むなということになった。政治干渉せずに、農民はプロフェッショナル農民たれと。

これまた、そのような政策に準じて真面目に農業に勤しんだ一族が繁栄して子孫を残すことになった。

コツコツと真面目に働き、親分に付き従い、政治に意見をしない国民性。日本独自の社会契約が発生して、それが現代まで続いている。と見ることもできそうだ。一人の一生が、現代よりも短かった時代のこと。江戸時代が終わる頃には、淘汰が進んでいたのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。生物の進化というものが、どの程度の時間でどの様に出現するのかは、まだうまく理解できていないんだけどね。ただ、傾向のようなものは遺伝的に継承されるらしいんだ。同じ人間なのに、国や地域で特異な文化が存在しているのはそのせいらしい。世の中を見るときには、こうした偏りも含めて見るのが良いのだろうね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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