今日のエッセイ-たろう

飲食店の変化「見栄え」と「清潔感」 2023年1月29日

正月はずっと営業していたので、初詣に訪れた頃には神社も静かなものだった。当然ながら露店も出ていないし、ほとんど日常。正月というのは、あっという間に過ぎ去っていくものなのだな。

最近、お客様と話をしていて話題になったのだけれど、どうやら神社の露店の数が減っているらしい。遠州地方では比較的大きな神社に小國神社がある。年越しの頃になると、深夜にも関わらず長い渋滞が発生する。駐車場もいっぱいになって、境内に辿り着く前から露店が立ち並び、参道もすっかりと縁日さながらである。というのが、ぼくの記憶。人の数は減ったとも思えないのに、どういうわけか露店の数が減っているらしい。聞いた話なので、その人の感覚によるものではある。けれども、何年も何十年も見てきた人の感覚というのは、案外正しいものだ。

そういえば、おでんやラーメンの屋台というものも見かけない。掛川みたいな田舎町だからこそ、人流が少なければあっという間に消えて無くなってしまう。それでも、静岡市や浜松市ではちらほらと屋台が見られたものだ。東京にいる頃には、吉祥寺や永福町、代々木の屋台でおでんやラーメンを食べた記憶がある。どうやら、それも今は昔。ほとんど消滅してしまったらしい。

売れなくなったんだろうな。ということは察しが付くのだけれど、それはなぜだろう。若い頃には、月に何度となく訪れたラーメン屋台は、おいしかった。そこに屋台がやってくる曜日は決まっていたので、必然的に顔見知りになる常連客もいた。もしかしたら、体力や年齢のことがあってやめてしまったのかもしれないのだけれど、それだけが原因なのだろうか。

浅草へ行くと、割りと早い時間から飲み屋が開いている。面白いもので、ビールケースをひっくり返したものの上に座布団をくくりつけた椅子や、海の家で見かけるような安いパイプ椅子である。テーブルもまた、安い作りで、ホッピーなどというものに焼酎と合わせて安酒を楽しむのである。

こういった設えは、今となっては必然性とは言えなくなっていて、昭和の裏町を表現するための演出になっている。本当ならそんなことはしなくても良いのだろう。もっと現代的でおしゃれな空間にすることも出来る。実際、店内は実に清潔で整えられているのが見て取れる。ぼくは世代ではないのだけれど、「昔はもっと汚くてなぁ」なんて話を先輩から聞いたことがある。

みんな清潔になったんだ。「汚くておいしい店」というのがバラエティ番組で流行したことがあったけれど、今では見つけること事態が困難。そうなんだ。おいしい店というのは、道具の手入れも行き届いているし、掃除だってちゃんとしている。そういうものなのだ。消費者もそれに気がついている。

おいしい店は、キレイである。これは等式で結ばれるものではなかったかもしれないのだけれど、いつのまにかイコールになった。等式は逆も真なりということになるので、キレイはおいしいという風潮が根付いたのかもしれない。

食べログやインスタ映えといったものが、どの程度影響しているかわからない。けれども、確実に料理の写真を撮る人が増えた。SNSの存在よりも、スマホ以前のケータイ電話にカメラが搭載されるようになったことも大きいかもしれない。常にカメラを持っている。昭和時代には考えられなかった状況でもある。

となると、飲食店は「見栄え」を意識した演出をすることになる。それが客入りに影響を与えるからだ。そうでなかったとしても、インスタなどでバズれば嬉しいだろう。中には、味そっちのけで見栄え重視の料理も登場している。見るからに食べにくそうな盛り付け。どう考えてもバランスの悪い組み合わせ。溶けていくさまが面白いかもしれないけれど、溶けてしまったらおいしくなくなるもの。料理人としては、なんだかなぁと思うのだけれど、気持ちはわからなくもない。

掛茶料理むとうでは、写真に映えるかどうかを気にして料理を作ったことはない。そもそも、会席料理や茶懐石といったスタイルでは、盛り付けが美しいことが大前提にある。日本料理の変遷シリーズでも少し触れたのだけれど、見て楽しむ、心遣いを楽しむ、食べて味わう、という味わい方のステップのようなものが、ずいぶんと昔から行われている。見立てや抽象化は、お家芸なのである。

ところが、これらの盛り付けは「写真にしたときに美しいかどうか」とは無縁のものだ。写真に撮られることを想定していない。もちろん、それを美しく写真に納める事はできるのだろうけれど、照明が必要なくらいである。

とても大雑把になるけれど、西洋料理は蛍光灯の色合いが合うのに対して、日本料理は白熱球の色合いが合うと言われている。食材の発色がそうなのだ。日本料理のほうが淡い色合いで、いうなれば水彩画のようである。写真に詳しい人に言わせると、日本料理のほうが難しいらしい。色彩だけでなく、高低差や奥行きといった要素も持ち込まれるから、光と構図に神経を使うのだそうだ。

見た目にキレイなのに、写真に撮ったらそうでもない。といったことは、もしかしたら経験があるかもしれない。そういうものなのだろう。とぼくなりに解釈している。

今日も読んでくれてありがとうございます。インスタ映えみたいなことを意識したほうが良いって言われるんだよね。わかるんだけど。一方で、肉眼の美しさを犠牲にしてしまいやしないかと、二の足を踏んでいるのも事実。てっさなんかはわかりやすいんだけどさ。平面だし。そもそも、わびってインスタ映えの真逆の思想っぽく感じるんだよなあ。どうなんだろう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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