今日のエッセイ-たろう

「好き」が生み出す熱狂。そして、ぼくの中にある「好き」。 2024年11月1日

先月、ぼくがSKS Japanに参加している間に、地元掛川ではハロウィンイベントが開催されていた。地元の有志で作り上げられたこのイベントは、今年で3回目を迎え、過去最高の集客だったそうだ。

ハロウィンイベントといっても、これがまた実に面白い。掛川百鬼夜行という名称で、和装をイメージしてもらう仕掛けになっているけれど、特にこだわりはない。どんな仮装でも、みんなが楽しめるならそれでオッケー。小さな子供から、孫がいるような人まで、思い思いの仮装で参加している。

と、ここまではどこにでもある仮装イベントなのだけれど、「楽しめるならオッケー」の精神は、もっと幅広く奥深い。

計画運営をしているスタッフも同じなのだ。こんなことをやりたい。こうしたら面白くなりそう。と誰かが思いついたら、思いついた人を中心に「どうやったら実現できるか」を追求していく。バンドを呼びたい。落語も面白い。ダンスパフォーマンスが楽しい。TRPGが好き。とにかく、「誰かの好き」をカタチにして盛り込んでしまう。今年は、有名Vtuberのライブまで実現してしまった。ほとんど予算のない中で、本来なら出演料だけでも目が飛び出るような金額のライブを実現してしまうのだから、彼らの「好き」のちからはとんでもないエネルギーを持っている。

そもそも、「好き」という気持ちには力があるのだ。なぜ好きなのか、というのは愚問である。握り寿司が好きだというのに、色々と理由を並べる人があるけれど、好きなものは好きなんだからしょうがないじゃないか。という、どうしようもなく惹かれる感情。それが、「好き」だ。

その「好き」がたくさん集まると、それはそれは驚くほどのエネルギーとなって、やがて熱狂へと繋がっていく。その熱狂に人は雲霞のごとく吸い寄せられていく。一般に広く知られる有名人などいなくても、たいそうな計画やお金をかけなくとも、真剣に取り組む姿に惚れ惚れしてしまうのだ。

そうして、地方のまちに2500人ほどの人が集結した。

企画計画から当日の運営まで、そのほとんどを専門の業者に頼ることなくやりきった。だからこそのエネルギーなのだろうし、それに惹かれて集まる人なのだろう。なにかと一般公募に頼り、お金で解決しようとする行政は全国に多数あるが、この現象をしっかりと見たほうが良い。

人が集まり、協力しあい、自ら汗を流す行為は、一見スマートではないかもしれない。けれども、実はなによりも人を引き付ける力を持っている。誰かの「好き」「情熱」は、半端なマーケティングなど吹き飛ばすほどの勢いがある。こんな話をすると興が冷めるが、実はこんなに効率の良い感情の伝播の方法は無いだろう。

SKSの熱狂も、同じ構造なのだろうと思う。主催者の熱があって、それぞれの登壇者にそれぞれの情熱がある。ああしたい、こうしたい、こういうのが好き。という声に対して、アレも良いし、これも良いね。と感情が重なる。熱が重なり合って、やがて熱狂となる。

ぼくもまた、その中にいられることに喜びを感じるし、この熱狂に進んで巻き込まれたいと思った。

よく、町おこしの文脈では「持続事業」「稼ぐ事業」が大切だと言われる。その反動で打ち上げ花火と揶揄される単発イベントは軽視される傾向にある。だが、それはイベントの主旨が「熱狂」を生み出していないというだけのことだ。そのイベントだけで儲けようという魂胆が透けて見える。いや、儲けようとまでは思っていなかったとしても「うまくやろう」という気持ちが強いのかもしれない。それよりも、熱狂することに特化すれば、イベントのあとに続く日常生活にポジティブな影響を与える。要は目的が違うということなのだろう。

いま、掛川という小さなまちで、いくつかの熱狂が生まれている。神社でお祭をやって花火を打ち上げたい。百鬼夜行をやりたい。たくさんのバンドを集めてストリートライブをやりたい。一つ一つが手作りだけれど、沢山の人が集まって良い感じに仕上がっている。

そして、ぼくにもやりたい「好き」がある。

美食の街で知られるスペインのバスクに並ぶ「食のまち」を掛川に出現させたい。と、本気で思っている。多種多様な飲食店があるだけじゃなく、それを学ぶ環境もあり、商流の川上から川下までが素敵な食料循環を体現するまち。サスティナブルかつ、美味しくて、健康で、食べることに関してはみんなが幸せになれるまち。やがて、様々な人がそこに吸い寄せられていく。そういう食のまち。

そのハブとして、「食の学校」があるのがぼくの理想。既存の調理技術や栄養学、衛生はもちろんだが、サイエンスで調理を研究する学問がほしい。それからもちろん、食文化史や美学、思想哲学。一次産業と消費の循環の社会実験も行いたい。その他諸々の研究と学びが地域社会に根付いている状態があって、その沿革を彩るのが外食産業。そんなイメージ。こうしたまちが、日本の地方にたくさんあって、それぞれが連携していく。

こうした環境が、食産業をブーストする土台になるはずだ。大手もスタートアップも、料理人も農家も漁師も。きっと、社会環境そのものが支えになる。と思っている。

今日も読んでいただきありがとうございます。それが社会善だからやるのかというと、まぁそういう部分もあるけれどね。それよりも、やりたいからやる、が強いかな。ぼくは、やるって言っちゃったんだけど、正直どうしたら良いかわからないことも多くてね。だから、一緒にやろうよ。ぼくを助けてください。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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