今日のエッセイ-たろう

「実は」煮物は簡単。バイアスの解除。 2024年4月6日

煮物は、難しいとか手間がかかるとか時間がかかるというイメージがあるらしい。気持ちはわからなくもないのだけれど、実際はそんなことはないのだ。鍋に水を張って、具材を煮る。で、好きなように味付けをすれば良い。炒め物のように焦がしてしまう心配も少ないし、揚げ物のように油の処理を心配する必要もない。オーブンなんかなくても、鍋が一つあれば良い。

なぜ煮物を大変だと感じるのだろう。ある人に聞いてみたら、時間がかかるからだという。煮込んでいる時間が確保できないのだそうだ。それは、煮物と呼ばれる料理の中でも、煮込み料理である。何時間も煮込んだやわらかい肉が美味しいというのは確かにある。けれど、それはごく一部のこと。そもそも、野菜や魚介ではそんなに長く煮込むことのほうが少ない。肉に比べてずっと柔らかいのだから長時間煮込む必要もないし、煮崩れたり溶けたりするリスクも有る。

中まで味が染み込んでいなければならない。そんな思い込みがあるかもしれない。別の人と話ていて気がついた。例えば魚の煮付けは、実は魚の身は白いのが普通。煮込みもあるけれど、ぼくらが作るのは中まで味が染み込まない程度に煮る。そのほうが、身が柔らかくてほっこりしているし、魚自体の味もわかりやすい。そのかわりに、煮汁が濃いのだ。煮汁に絡ませながら食べるくらいでちょうどいい。味の濃いおかずと白いご飯をあわせるくらいの感覚。そんなだから、調理時間は短い。そうだなあ。だいたい15分くらいだろうか。

出汁を取るのが面倒だという声も聞く。面倒なら、顆粒出汁を使っても良いし、液体の出汁を使っても良い。そもそも、煮魚に出汁は必要ない。魚から十分すぎるほどの出汁が出るからだ。当然野菜からも出る。それらが鍋の中で勝手に合わさって、別の食材にも香りが移る。それで十分すぎるほどに美味しくなる。野菜だけの煮物のときには、多少うまみを補完するのが良いだろうけれど、削り節や昆布やキノコをそのまま放り込めば完了だ。あとは、日本の伝統調味料である醤油や味噌、みりんや酒が旨味を足してくれる。

なんとなく、味がうまくまとまらない。という時もあるかもしれない。それは、たぶん香りが足りないのだと思う。絶対ではないけれど、そういうことが多い。生姜やネギを加えてもいいし、春ならば菜花やフキなどの苦みのある山菜を加えても良い。仕上げに七味唐辛子や山椒を振りかければ、ぐっと味が引き締まる。

料理屋で提供される魚の煮付けには、ゴボウが添えられていることに気がついたことはあるだろうか。ゴボウは、香りの野菜なのだ。ゴボウを野菜として食べる国は日本以外には無いという。原産はユーラシア大陸で、中国でもヨーロッパでもあちこちで自生しているのだけれど、野菜という認識はされていないのだ。ただ、世界各地で「香り」に注目された植物であることには変わりない。中国ならば漢方薬の原料だし、ヨーロッパならば薬用ハーブなどに使われてきた歴史がある。

つまり、手元に「香り野菜」が無いときは、「スパイス」を加えると良い。クミンでもコリアンダーでもカルダモンでもシナモンでも、試してみると良いだろう。最近、試しに魚だけの煮物を作って、少しだけクミンパウダーを入れてみたのだけれど、これはこれでなかなか良い。家族にクミンを使ったことを伝えずに味見してもらったのだけれど、けっこう評判が良かった。そのうち、お客様にも提供するかもしれない。七味唐辛子も山椒も胡麻もスパイスだし、生姜もネギもハーブだし、ゴボウもハーブ。そう思うと、ではなく、紛れもなくそうなのだ。ただ、言われるまで多くの日本人が総認識していないというだけである。

今日も読んでくれてありがとうございます。一度思い込んじゃうと、そういうものだと思って過ごしちゃう。言われてみればそうだよね。と思うことって、結構多いと思うんだ。そういことに気付くために視点を変えると良いって言われるんだけど、そのために違う文化の視点を取り入れるのが良いと思うんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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