ぼくらが描きたい世界像。 2024年6月28日

夏至も過ぎて、夏野菜が旺盛だ。どこのマーケットに行っても美味しそうなトマトやきゅうりが並んでいる。ぼくらはこれらの野菜のことをどれほど知っているだろうか。という話になると、たべものラジオの本編になってしまうので、それはまたいずれじっくりとやろうと思う。

さて、きゅうりを育てるのに適した環境について聞いたことはあるだろうか。土や水、気温などの話。きゅうりは湿った土を好むのだけれど、例えば森の中にあるような土をイメージするとわかりやすいだろうか。土が湿っているくらいだから、それなりに降水量が必要だ。温暖な気候が好みで、暑すぎても寒すぎてもよくない。

これは、きゅうりの原産地の環境そのものだ。原産地は、インドの北西部で、ヒマラヤ山脈の南側あたりだと言われている。かなり古い時代に世界中に伝播したから、それぞれの地域に合わせて品種改良されているけれど、やはり適した環境は原産地に近いものになるのだろう。

現在のことを読み解くのに、そのものの来歴を知ると理解が早い。他にもいろいろと工夫や注意点はあるのだけれど、ざっくりと傾向を知るためには役に立つと思うのだ。

なぜ和食が今の形になっているのかを考えるとき。気候や地理条件がどのように影響したのか。日本の環境だったから、今知られているような和食というものが形作られてきたわけだ。そこに、人の手が加わっていて、外来の食文化が魔改造されてきたことは、植物の品種改良に近い感覚がある。つまり、品種改良も日本の環境やそこに住まう人々の好み、文化に影響されてきたと言えるだろう。

こうしたことを知るだけでも、純粋にオモシロイと思っている。そして、使えるのじゃないかとも思っている。きゅうりの栽培条件を知って、栽培に活かすことが出来るようにね。今すでに、いろんな和食が海外へと旅立っている。たどり着いた先では、その地域特有の環境や文化があるわけだ。もちろん、日本にはあるのにそこでは手に入らないものもあるだろう。そうしたとき、どんなローカライズが起きるのか、というのは自然と社会の環境から読み解くことも出来そうだ。

例えば、ビジネスとしてある日本の食文化を海外で展開しようと考えたとする。日本のものをそのまま輸送してもよいのだけれど、一定の確率で受け入れられないという事象が発生する。だから、試行錯誤をして現地に合わせていくことになるわけだ。その時、日本と現地の環境を知っていれば、そこそこ精度高くローカライズの方向性が見えてくるのではないかと思う。

そんなことをしなくても、あっという間に現地に根付く方法がある、と思うかもしれない。いやぼくもそう思っている。簡単なことだ。人間の味覚をハックしてしまえば良い。糖や脂肪、塩味は人間の味覚をハックして、依存性を高めることが出来るという話は、たべものラジオの砂糖シーズで紹介したとおりだ。それから、戦後日本で行われたようにキッチンカーや給食を使って、洗脳していく方法もある。

でもこのスタイルは好きじゃない。そこにある美しい絵の上から、ポスターカラーでベタ塗りするような感覚があるんだ。完全な上書き。上書きをすると、現地の環境に適していない作物は輸入に頼らなくちゃいけなくて、結局輸出業者が儲かるだけで、現地の人達はそこに依存することになるかもしれない。

あの国のこれを真似したいけれど、同じものがなくて環境も違うから出来る範囲で工夫してやってみる。その結果、いい感じに使えるようになるというのが魔改造と呼ばれているものの正体だろう。

世界中に多様な寿司があって、その国でしか食べられないスタイルが生まれる。日本のカレーライスは、インドには存在しない。オランダのチーズは、肥沃な三日月地帯で生まれた頃とは別物だ。どれもこれも、現地の環境にしたがって現地に根付いている。だから面白い。本家本元を食べてみたいと思うこともあるだろうし、旅行や外食で異なるスタイルを味わうのも楽しい。

それに、もしかしたら。

食文化があちこちで交流した結果、新たな文化がその地域の社会課題を解決するヒントになることもあるかもしれない。

今日も読んでいただきありがとうございます。うちの会社は、食と未来を考えるというのが一つのコンセプト。で、そのために食文化のキュレーションや学ぶ環境の整備、コミュニティの醸成が大切だと考えているんだ。飲食店も、たべものラジオもそのひとつの現れかな。

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