今日のエッセイ-たろう

トラフグが豊漁。資源管理の仕組みと意識。 2024年11月28日

今シーズンはフグが豊漁だ。他の地域の情報が少ないので簡単に言い切ることは出来ないけれど、少なくとも静岡県近海では昨年に比べて漁獲量が多い。フグ料理を提供する店としてはありがたい話だけれど、これが手放しで喜べないのだ。未成熟の個体がけっこう多いからである。

トラフグの寿命はおよそ10年。5歳をこえてくると、全長60cmほどで3kg弱というのが成魚のイメージだ。全長40cm、体重1.5kgあたりから成魚と言われていて、年齢にして2〜3歳である。20世紀末から漁獲量は減少傾向にあって、そろそろマズイぞということになって、未成魚の漁獲をやめようという話が出たのが平成27年頃。

水産庁の資料を見ると、平成6年〜平成16年の年齢別漁獲数割合は「0歳:47.5%」「1歳:23.8%」「2歳:13.5%」となっている。つまり、漁獲量のうちほとんどが未成魚なのだ。特に、産卵場となる有明海や瀬戸内海で未成魚の漁獲偏っていて、これが業界では大きな問題だったわけだ。

その後、各地域で未成魚の漁獲を控える動きが出来た。概ね40cmを基準として、これ以下の個体を漁獲しないようにしたし、成魚も捕りすぎないようにした。令和6年の水産庁の資料を見ても一目瞭然である。全体の漁獲量が下がっている一番の要因は、未成魚の漁獲量が減っているからだ。やっと少しずつ親魚が育ってきて、それなりに個体数が増えてきているのではないかという予測が立つ。つまり、今年の豊漁は漁業の抑制の結果ということなのかもしれない。

水産庁の資料を見ていて、いくつか気になることがある。「獲り残し」という表現も違和感が残るのだけれど、一番気になるのは「トラフグ資源管理における対象区域」だ。九州・瀬戸内海域が対象になっているだけで、他の地域は考慮されていない。

漁業というのは、農業に比べて実にめんどくさい部分がある。農業ならば、自分の農地で育った野菜はその人のものということになるわけで、もし収穫しなかったとしても他の農家さんがとりにくるようなことはない。ところが、漁業の場合は獲物のほうが海域を移動するので、自分が取らなければ誰かの収穫物になるのだ。だから、構造的に「生産物の取り合い」になる可能性を持っている。漁業に限らず、狩猟というのはそういうものなのである。

近年、環境温暖化が進んでいることは周知の事実である。特に日本周辺の海水温の上昇は世界平均よりも大きいことが知られている。海流は今までと違う流れをするようになったし、太平洋側はかなり北の方まで温かい水が流れ込むようになった。元来、九州から台湾の間くらい環境を好むのがトラフグなのだが、快適な環境そのものが北上したことから、静岡県はおろか東北や北海道までその生活域が移動した。

トラフグの資源管理をちゃんとやって持続可能な漁業を作ろう!と言っていた人たちじゃない地域が増えたのだ。

現在、静岡県のフグ漁獲に関する取り組みは不明だ。なにしろ、全国規模で見れば圧倒的に漁獲量が少ないので、ほとんど情報としてピックアップされていない。本当はぼくらが直接漁師から話を聞けばよいのだけれど、なかなか接点が無いのも問題ではある。わからないことが多いのだけれど、少なくとも市場と中間流通業者の声を聞く限り、未成魚がかなり多そうだ。先日も、20cm程度の小型のトラフグを買って欲しいと連絡があったばかりだ。

環境保護の観点からも、漁業環境保全の観点からもナンセンスである。が、普通に考えてビジネスとしても非合理的だ。未熟な野菜を根こそぎ収穫してしまうような農家は存在しないのである。

近現代のビジネス病である偏った効率化、合理化はナンセンスだと思っている。実は、こうした漁業の問題も同じ文脈で語ることが出来るのではないだろうか。

そもそも、効率が良いかどうか、合理的であるかどうかの判断基準が統一されていないのが課題だと思う。いや、判断基準というのもそうだけれど、対象範囲の設定が必要なのだろう。

といったところで、続きはまた次回。

今日も読んでいただきありがとうございます。成魚も例年より多いから、全体的に豊漁なんだろうな。だから余計に未成魚が安くて、だから買う人がいる。買う人がいるから獲っちゃう。料理屋や消費者が「買わない」という選択肢を持つことが大切なんだよね。仔牛とか仔羊みたいに、未成熟の味わいが良いというのであれば、まぁ理解できなくもないんだけどさ。フグの場合は未成熟だと味が落ちるんだから、ホントに意味ないと思うんだよなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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