今日のエッセイ-たろう

ファストフード店はでっかい自動販売機。 2025年4月10日

先日、マクドナルドが世界中の店舗をAIでリニューアルすると発表した。記事を読んだところで、細かいことは書かれていないけれど、「インターネットに接続された厨房設備、人工知能対応のドライブスルー、マネージャー向けのAI搭載ツールなど」が導入されるそうだ。

何も驚くことはない。マクドナルドをはじめとしたファストフードチェーンの正統進化だろう。マクドナルド兄弟がもたらしたイノベーションは、ハンバーガーそのものやフランチャイズの仕組みではなくて、調理から販売までのプロセスを徹底的にシステムとして洗練させたことなのだ。徹底した効率化をすることで、簡単な訓練さえすれば誰でも調理スタッフになれるし接客ができるようになったし、圧倒的に短い時間で提供することが出来るようになった。

早い安い旨いは、牛丼チェーン店吉野家のキャッチコピーだが、早い安いをシステムで確立させたのはマクドナルドだ。20世紀はスピードの時代だったのかもしれない。今でもタイムパフォーマンスを気にする人がいるけれど、まだ「パフォーマンス」という言葉が入っているだけ良い。かつては、クオリティよりもとにかく時間が大事だという空気もあったように思える。

誰もが忙しくて、とにかくビジネスにかける時間を作り出すために食事の時間すらも短縮させたい。提供時間を短くするだけでなく、すぐに食べられるように提供方法も工夫された。そのうち、車から降りるのも時間がもったいないとドライブスルーまで考え出された。まだ携帯電話が登場するよりも前に、アメリカではドライブスルーの公衆電話や銀行窓口が登場していた。それらは、最初車で移動する営業マンをターゲットにしたものだったらしい。

多くの動物は食料を確保するために1日の大半を費やしている。歴史を遡れば、我々人類も同じだ。森や野原や水辺へと足を運び食料を手に入れる。集落へ持ち帰ると、長い時間をかけて食べられるように加工して食事にありつく。朝食を食べ終わって、狩猟採集なり農耕作業なりを行ってから次の食事の準備を始めると、食べ始めるのが夕方近くになる。1日2回の食事が一般的だったというのは、いろんな文化圏に見られることだけど、食事のために費やす時間が長いのだから、自然とそうなったのかもしれない。

その反動だろうか。長い年月をかけて、人類は食事を効率よく手に入れられるようと一直線に向かってきたようだ。そして、ついにコンビニエンスストアや自動販売機が各地に立ち並ぶようになった。お腹が減ったら、なんの準備もすること無く食べられる。時短の極みである。

けれども、ぼくらはうまいものを食べたいという欲求を抑えられない。味や香り、食感や手触り、温かさ。こうした「うまい」を迅速に提供するには、大きく2つの方法がある。食材の質や料理が上手かどうかという、食事そのもののクオリティの高さがひとつ。もうひとつは、出来立てかどうか、だ。どんな料理も、時間が経てば劣化する。温かいものは冷めるし、冷たいものはぬるくなる。麺はのびて、パンは乾燥する。これを解決してくれるのがファストフードといえる。

言い換えれば、ファストフードは自動販売機の上位互換に位置づけることも出来るだろう。だとするなら、今回のマクドナルドのAI導入は、「調理&提供システム」の高度化だ。このまま進むと、ロボティクスの導入などで、ついには人の出番はなくなるかもしれない。そうすれば、大きな高性能自動販売機の完成というわけだ。

ドラえもんのひみつ道具の中に「グルメテーブルかけ」が登場する。このテーブルかけに食べたいものを注文すると、どんな料理でもあっという間に提供してくれるのだ。もしかしたら、調理時間の短縮の究極形として、ここへ向かっているのかもしれない。

ありとあらゆる物事の時間を短縮して、ついには食事の時間すらも削ることになるのだろうか。ドラゴンボールの世界に登場する「仙豆」は、たった一粒で1週間は過ごせるという完全栄養食だ。災害時などの特殊条件では圧倒的な効果を発揮することになるだろうけど、それがウェルビーイング、幸福につながるかと考えると疑問である。

短い時間で最大の効果を発揮する。産業はその方向で進んできた。いわゆる生産性の向上。100年前と比べても圧倒的に効率が良くなっているのだから、働く時間はどんどん短くなるはずだった。だったのに、むしろ忙しくなっているのはどういうことだろう。食事をゆっくりと楽しむとか、食事を作ることを楽しむとか、そういうことを犠牲にしてきたのに、もっと時間が足りなくなってきた。不思議なことだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。時間を見直すべきだ。というよりも、社会全体のシステムを見直さなくちゃいけないんだろうな。価値観も含めてさ。食事をゆっくり楽しめることが最上、という一見ふざけたような価値観を設定して、そのためにあらゆる社会の仕組みを作り直しちゃうの。このゴールをぶらさずに経済活動を頑張らなくちゃいけないっていうゲームルール。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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