今日のエッセイ-たろう

モノを大切にする心と土。 2022年11月19日

なんだってまた、ふすまというのは傷むのだ。と嘆いているのは、うちの店のふすまの劣化が激しいから。経年劣化もあるけれど、一番の理由は開け締めの仕方なんだよね。

ふすまには手をかけるところがついている。丸いものもあれば四角いものもある。開け締めの際には、そこに手をかける。そういうふうに作られている。縁の部分に手をかければ閉められるのだけれど、そこに手をかけると襖紙がボロボロになるからだ。縁だって、その役割は「枠」なのだから、手をかければ傷む。モノづくりの世界で長らく残ってきた機能には、それなりに理由があるんだね。

亡くなった祖母がよく言っていたよ。だから、暮らしていくための教養が必要なんだって。

リユースやリサイクル、アップサイクル。より環境に優しい商品。SDGsの語り口で、これらのことも語られる。ゴミを減らすというのもひとつ。その観点では、道具は正しく使って長持ちさせるというのも必要なんじゃないかな。

よりエコな車に乗り換えるよりも、丁寧に手入れをしながら古い車に乗り続けるほうが環境にやさしい。と、どこかの誰かが言っていた。もうずいぶん前の発言だから、化石燃料の課題が表出していなかった頃のことね。現代でも直接的に通用するかどうかわからないけれど、この考え方自体は示唆深い。

食を取り巻く環境で、似たようなことで言うとなんだろう。厨房の中だったら機材一式がそうなのかな。庖丁だって、鍋だってきちんと手入れをすれば、長持ちさせられる。使う、洗う、拭く。この当たり前の動作を怠ること無くこまめに行うだけでも、庖丁の劣化は遅くなる。もしかしたら、職人の世界に引き継がれてきた「道具に対する敬意」は「長い歴史の中で培われたエコの知恵」と呼べるのかもしれない。

スケールをぐっと広げてみるとなにが見えてくるだろう。ふと思いつくのは、土壌。山とか川、田んぼに畑。そういった自然環境はどうだろうな。

畑の場合、作物がすくすくと成長できるかどうかは土壌にかかっている。土壌が良ければ、作物は豊富に採れる。黒土とか赤土が特にむいているとか。今は戦禍にまみえているウクライナは最も肥沃と言われる黒土、チェルノーゼムが広がる地域だ。世界の食料庫とまで言われるウクライナは、地球上のチェルノーゼムの3割が集中している。土が良いと言うだけで、戦争が起きるのか。それが起きるのだ。現に、今がそれだ。歴史を紐解いても、やはりウクライナがキエフ大公国と呼ばれた時代からあと、その豊かな大地はターゲットになり続けている。

これだけ豊かな土地は、世界中を見ても限られている。ウクライナだけじゃなく、北アメリカや南アメリカ、オーストラリアにも豊かな土壌がある。それに比べると西ヨーロッパなどは土の力が弱い。せっかく恵まれた大地に恵まれながら、その力が急速に弱まっている地域がある。アメリカ合衆国だ。近代になって、農業も大型工作機械を用いる大農園になっていった。大型のトラクターで、ガンガン土を掘り返す。そうして麦やジャガイモなどを作ってきた。

あまりにも力強く、そして早く土壌を掘り返すものだから、その水分が乾いてしまう。乾いた土が風に舞いやすいのは想像に難くないだろう。その結果、豊かな土壌は薄くなっているらしい。数字は忘れちゃったけど、1mくらいあった土壌の深さはあっという間に30センチほど浅くなった、というくらいの勢いだったかな。

そうだ、この先100年で30cmの表土を失うってデータがあったっけ。

そこまでではなくても、普通に土を耕すと10年で1cmくらいは無くなるって。

これに対して、土が蓄積するのは時間がかかる。農業に適した豊かな土壌が成長するのにかかる時間だね。100年で1cmくらい。1mの土が出来るのに、1万年。

土から栄養をもらって、それを食べる。というのが地球上の生物の「生き方」なのだ。もらった栄養はエネルギーになるけれど、余った部分は排泄物として流されるし、燃焼されて大気中に放出される。放出されたものの一部は温室効果ガスになっているという。

どうにかして、土に戻す方法は無いもんだろうか。肥料といったって、化学肥料を作るにも化石燃料が必要なのだ。結局のところ、排泄物などを戻すしか無いのだろうか。生ゴミなどが自然分解して土になるまでには、とんでもない時間がかかるのだ。土を回復させるため科学技術と、土を傷めないための使い方をなんとなしなくちゃだね。

今日も読んでくれてありがとうございます。ここで言った「土の使い方」。それは、農家などの土に携わる人だけの話じゃない。もっと広く、人類全体で土に対してどのようにアプローチするのかを考えるという意味での「土の使い方」ね。そもそも、人間は土が無くなったら生きていけないんだから。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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