今日のエッセイ-たろう

勇者のパーティーは何処へいく?賞金稼ぎになっていないか。 2024年3月2日

勇者が冒険に出るとき、はじめは1人だけどたいてい仲間ができる。旅に出る前に仲間を募ることもあるし、旅の途中で仲間が増えていくこともある。なんとなく、同じ目的を持っているからとか、楽しそうだから、気に入ったからなどといった理由で一緒にいるように思える。物語の中ではそんなふうに語られることもある。もちろん、そういう理由もあるのだけれど、本質的には助け合うために集団になるんだよね。

ダンジョンの中では、お互いの得意を活かして知恵を出したり、力を発揮して、1人ではできなかったはずのことをクリアしていくわけだ。とても1人では倒せそうにない魔物もパーティーだから立ち向かっていける。力やスキル、勇気の源。まるで少年漫画のような話だけれど、世の中の集団組織って、本質的には同じはずだ。

会社もそうだし、農業協同組合とか、商工会や商工会議所もそうだし、観光協会もそうだし、まぁなんでもいい。なにか成し遂げたいことがあって、それはとても1人じゃ難しかったり、とんでもなく時間がかかってしまったりするから、集団を作る。だよね。

で、どういうわけか、それが忘れられてしまう。はじめのうちは良いんだけど、何年何十年という月日のせいなのか、それとも人数が膨れ上がって意思が伝わらないのか。本来の意味がよくわからなくなってしまう。

ある団体に所属していて、こんなことを言われたことがある。「この組織は自己研鑽の場である。君の言っていることは間違っている。」とね。だけど、創立から続く理念はこうだ。「経済活動を通して地域社会への貢献を行う。そのための手段として地域活動を行ったり、政策提言を行う」。これを伝えたところ、「君がそんなことを決めるのはおかしい」という話になった。そうじゃないんだよね。そもそも、組織の目的があって、それに呼応する形で参加しているわけだからさ。別の目的を持ち込むなら、それなりの方法で方向転換をする必要があるだろうし、そうじゃなければ別組織を作れば良い。社会貢献に資する活動をしていたら結果として自己研鑽につながるということがあるけど、副産物としての効果のほうがピックアップされているんだろうね。もちろん、ジョインするときにはそれを目的としてもよいのだけれど、そのパーティーがどこへ向かって旅をしているのかは知っておく必要があるよね。

小規模農業従事者がちゃんと安定して生産することが出来るようにして、その結果国民が飢饉などで飢えることがないようにする。というのが、農協の存在意義。農民も国民も生活で困るようなことが起きないこと。が目的だと、ちゃんと当時の資料にも記されている。JAバンクは、それを達成するために必要な機能として設置された。決して高い農業機械を買わせて首が回らなくなったり、方向転換ができないような環境を作ったりするのが目的じゃない。

教育委員会は、教育環境を整えて子どもたちが希望する教育を受けられる体制を整えることに主眼がある。先ごろ、中学校の先生が預かっていた生徒の願書を期限までに提出できなかったという事故が報じられた。2時間の遅れだったそうだが、ルールを守ることが優先されて生徒たちは受験することが出来なかったという。確かに、受付に関してはルールを厳密に守る必要もあるのかもしれない。ただ、子どもたちに教育の機会を提供するという本来の目的に照らし合わせたとき、この対応が組織の理念に沿っていたのかは大いに疑問が残る。

人類は、虚構まで使って集団を肥大化させた。集団の最大数は、動物によってある程度決まっていて、人類は150程度だと人類学者のロビン・ダンバーが提唱したことで知られている。それを超えるために虚構、つまり神話などが生み出されたとユヴァル・ノア・ハラリは言う。彼らの言うことが事実ならば、ぼくらは何のために大きな集団を作り出したのだろう。ダンバー数の1000倍もの人が集まった地方自治体とはなんだろう。国とはなんだろうか。

生まれたときから組織に所属している。自分で選んだわけじゃないから、その組織の存在理由なんて知らないし従う義理もない。まぁ、それはそれで自由選択してもいいだろう。だとするなら、その組織を辞めて他の組織に移るっていう選択肢くらいしか残されていないのだよね。そういう時代。昔なら入会地や公界があったし、無人の空間が日本にもあったらしいけど。

今日も読んでくれてありがとうございます。すっごい再現性の高い現象だと思うんだ。現代社会で問題となっていることのなかに、穀物メジャー、種子産業、外食チェーン、農協の存在が取り上げられてしまっている。最初から利益だけが目的で、搾取も厭わない存在は困りものなのだけれど、途中で曲がっちゃったところも似たような問題を抱えているよね。どうしたもんだろうか。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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