今日のエッセイ-たろう

動きをイメージするのが先。 2024年10月10日

先日受け入れした中学生の職業体験を通じて感じたのだけれど、動きをイメージするってとても大切。とりあえずやってみようという精神はとても良いことなのだけれど、自分の体や包丁がどのように動いているか、というイメージを持つことも大切だ。

まな板に対して、どんな位置に自分の体を置くか。包丁はどの様に動くのか。包丁の刃が食材に入り込むのは、どういうことか。一連の動きをやる前からイメージが出来ているかどうかで、けっこう出来栄えに差が出るのだ。

もちろん、そう簡単にイメージ通りに体を動かすことなんて出来ない。でも、それはイメージした体の動きとの差分を少しずつ埋めていけばいい。たぶん、体を動かすってそういうこと。スポーツでもイメージトレーニングが大切だって言うけれど、思い通りに体を動かすためには、思うことが先にあるってことだ。

考えてばかりいないで、どんどん体を動かせ。ということを言われることもある。それも真実だと思う。というのも、ある程度体を動かしてみないと、イメージが沸かないからだろう。やってみること。動きをイメージすること。思い通りに動かそうとしてみること。これらを繰り返して、少しずつイメージ通りに体を動かせるようになる。そんなことだろう。

何年も職業体験の受け入れをしていると、たまに勘の良い中学生がいる。話を聞いてみると、ぼくが見本を見せているときには、自分がその場に立って作業しているような視点だという。見るという行為と同時に、自分の体の動きをイメージしているらしい。もちろん、初めてやることだからうまくいくわけ無いのだけれど、失敗したときの感想が面白いのだ。ホントは、ここをこんなふうにスパッとやりたかったんだけど、思ったように手が動かなかった。それは、想像していたよりも骨が硬かったとか、包丁の重さのせいか思い通りに道具を扱えなかったとか、そんな話をする。

イメージして、やってみて、失敗して、そしてイメージを修正してまたやってみる。身体性を伴う作業は、この繰り返し。だから、手本を見せてもらうたびに見るポイントが少しずつ変わっていくのだ。

フグの薄造りに挑戦し始めた頃、最初は父の立ち姿とか全体的な包丁の動きに注目していたように思う。で、自分でやってみてうまくいかないと、今度は父の左手にも注目してみる。自分がやる時との差分を少しでも埋めようとして、ちょっとずつ探っていくのだ。そのうちに、包丁の角度やスピードなど、本当に細かいところまで観察するようになって、自分の体にインストールしていく。ある程度、模倣することが出来るようになってもうまくいかないところは、自分なりの工夫も組み合わせて形にしていく。

しばらくして、それなりにお客様に提供できるようになると、自立した気になっていく。で、久しぶりに父の手元を見る機会があったときに、また新たな気づきを得ることがある。イメージと経験の両方が駆動することで、動作に対する解像度が上がっていくのだろう。

たぶん、身体動作以外でも似たようなことがある気がしている。なにかにチャレンジするときって、けっこうイメージが大切なのだろう。想定外のことが起きるのはアタリマエのこととして、それでもイメージしてみる。例えば、会社の事業計画だって同じだろうと思うのだ。こんなふうにすれば、きっとこうなる。そういうイメージがあって、やってみると色々と出来ないことがわかってくる。それはその都度修正すれば良い。とりあえずやってみようという精神は、イメージをふくらませるための学習機会だと捉えるくらいでちょうどいいのだろうと思う。

職業体験のたびに、こんな話を伝えるのだけれど、はてさてどれほど伝わっているかはわからない。まぁ、こんな事を言っていた大人がいたなぁ、とあとになって思い出すことが有ればそれはそれでいいやってなものだけれど。

ただ、失敗をすることもあるという前提で挑戦するというのは大切だ。はじめから失敗してもいいやって言うわけじゃないけれど、想定外のことが起きることくらいは想定内。という感覚。失敗することだってあるわな。

そうなってくると、失敗を許容する心が必要になる。結局、自分の失敗を失敗だと思うかどうかは自分次第なのだ。けれども、人間なんてものは案外脆いもので、周囲の声には揺さぶられてしまう。失敗をしたら周りから何か嫌なことを言われてしまこともあるだろう。それに打ち克つには、相当の強い精神力か、知ったことかと開き直る心が必要になる。そんなものは、それこそたくさんの失敗を経験しなくちゃ手に入らないかもしれない。その辺りがなかなか大変なのだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。アタリマエのことを書いてしまったけれど、自分に言い聞かせている部分もあるんだよね。最近は開き直りの気持ちが強くなってきたけれど、それでもどこかで怖気づく自分もいるからね。まぁ、ぼくらは自己修行と思えば良いんだけど、願わくば子どものうちは、ナイスチャレンジってな具合に、失敗を許容する社会の中で育ってくれたらなって思うよ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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