今日のエッセイ-たろう

土用の丑の日っていのは、ぷち贅沢の言い訳だったかもしれねぇよ。 2024年7月26日

30年ぶりの復刻メニュー。7月24日は土用の丑の日ということで、かつての人気メニュー「うなぎおろし」という定食を一日限りで復刻したのである。ふだん、あまり土用の丑の日だからってうなぎを大々的にアピールすることはなかったのだけど、結構盛り上がったし、ぼくらも楽しかったので良いのだ。

うなぎの旬は本来晩秋から冬。というのは、うなぎの生態からして間違い無さそうだ。ただ、これだけ長い間「夏場のうなぎ」が定着してしまうと、どうかしてうなぎの方も合わせてくるのかもしれない。うなぎの養殖業者さんが調整してくれているのだろう。

旬じゃなくても、やっぱり旨いものは旨いのだ。こってりとした味を食べるのが夏に向かないといっても、それは江戸時代のこと。今では、涼しくクーラーの効いた部屋で食べる贅沢が出来てしまう。さまざまに人間のエゴが発揮されているのだけれど、ちょっと気を抜く時があっても良い。それに、なんだかんだとうなぎの栄養は夏バテに効果があるらしいからね。

そうそう、もとはと言えば夏に精をつけるなら、ドジョウだ。まさに今が旬。たぶん、江戸時代にはそちらが主流だったのだろうと思う。そういう背景があって、土用の丑の日にうなぎというコピーが効力を持ったのかもしれないよ。とまぁ、どうでも良い妄想。

今は、定食らしい定食を提供していないので、なんだかとても新鮮だったな。それにとても懐かしい。30年前、ぼくはまだ学生だったけれど、子供の頃から店を手伝っていたので、とても馴染み深いメニューなんだ。弟はほとんど記憶にないから、今回の企画では当時の写真を見ながら再現しようとしていたけれど、ぼくらは当時の記憶をたどっていくほうが意識としては強い。

昔のメニューはデータとして保存している。だから、写真を見れば定食の内容がわかる。だけど、そのメニューがずっとその構成だったわけじゃないんだよね。おろし蕎麦のトッピングも変化したし、付け合せも変化していったし。だから、写真のほうが古い情報のままということもある。なんというか、時間の感覚がカクカクしちゃうんだよね。しょうがない。定点観測だから。それに比べて、記憶の方は滑らかな感じ。ずっとつながっている緩やかな変化を感じているんだ。ただ、めちゃくちゃ曖昧。写真などのデータは、記憶を再構築するために使うとちょうどよいのかもしれない。

たべものラジオで食文化史をたどっているときも、ちょっと似たような感覚があるかもしれない。書籍化されているものや、論文、ときには一次資料にもあたるのだけれど、それらは歴史の中の一部。飛び石のように断続的な記録なんだよね。その間のことは、想像するしか無い。そんなに長くは生きていないからね。ぼく個人の記憶から呼び覚ますわけには行かないのだ。当たり前だ。

ただ、文化の記憶というのはあるような気がしている。日本人の記憶とでも言うのだろうか。結局のところは推測になっちゃうんだけど、なんとなく流れのようなものが見えてくるような気がするんだよ。食文化だけじゃなくて、政治や経済はもちろん、生活習慣とか住環境とか、思想とか気候とか、諸々のことを体にインストールしておく。現代人の感覚と江戸時代人の感覚を対比しながら、バーチャルな自分をタイムトリップさせる。で、あったあった懐かしいね、と嘘っぱちだけどリアルに思える世界を妄想してしまう。

妄想世界の江戸人であるぼくは、道端で売っているうなぎの匂いを嗅ぎながら、懐手に銭の重さを測っている。今日はちょっとばかり奮発してうなぎでも食うか。土用の丑の日だなんて、よくわかんないけど、うなぎを食べる口実にはちょうど良いや。なんてことを思って、ちょっと勢いをつけて声を掛ける。鰻屋さん、いい匂いだね。

今日も読んでいただきありがとうございます。セールスコピーだったのかもしれないけどさ。そもそも食べたかったんじゃないの?べらぼうに高いわけじゃないけれど、ちょっとした贅沢。そこに飛び込むきっかけづくりってのが、土用の丑の日だったってことなんじゃねぇかな。おっと、今年は来週も丑の日があるんだってね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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