今日のエッセイ-たろう

才能に気がつくことが出来たら、いろいろ楽しそうだ。 2022年9月6日

前の奥さんの話なんだけど、彼女はびっくりするくらいに淡々とした作業が苦にならない人だ。ホントにびっくりしたんだよ。何かの時に2時間位の待ち時間が出来ちゃったの。それで、ぼくなんかは落ち着きが無いもんだから、いろんな雑誌を手に取ったりして、とうとう近所のコンビニで本を買ってきて読んでいたんだ。けれども、彼女は身じろぎもせずにずっと同じことをしてたのだ。ケータイゲームのテトリス。まだスマホが普及する前の話ね。

そのテトリスっていうのは、通信対戦をするわけでもないし、ステージをクリアするようなものでもない。ただたた、ひたすら同じことを繰り返すだけのゲーム。言ってみれば、昔のゲームウォッチみたいなもの。それを、2時間もずっとやり続ける集中力なんて、ぼくには信じられないのだ。しかも、何も生み出さないし、何も得ることなんて無いんだから。

正直に言って呆れた。ちょっと馬鹿にしていたかもしれない。いや、彼女をではない。クリエイティブから遠そうな人たちをだ。よくもまあ毎日まったく同じ作業を繰り返していて飽きないものだ。どこかカイゼンするとか、知恵を絞るとか、そういう発想にはならないのかね。と、生意気なことを考えていたんだ。

今は、自分がどれだけ馬鹿なことを考えていたのかと思うようになった。だって、ぼくには逆立ちしたって出来ないのだ。もうホントにびっくりするくらいに続かない。工場のラインで、ひたすらバグのある個体を弾く作業をしている人がいるよね。はじめのうちは面白がってやるかもしれないけれど、1週間も続けられる自身はない。まったくもって役立たずだ。

本気で「スゲー」と思う。とんでもない集中力。ただひたすらに鼓動を打ち続ける心臓みたいなものだ。腕や指は自由に動くし、その時々でいろんな役割をする。今だって、脳の指示に従ってキーボードを叩き分けている。脳は、指示を出すこともしているし、それ以前にこうして文章を考えて生み出している。どちらもクリエイティブに見える。実際そうだろう。だけど、心臓が止まったらどちらも止まるんだよね。そういう存在なんだ。

クリエイティブな事をしている人のほうが偉い。そういう勘違いをするから、ぼくみたいに馬鹿なことを考えてしまうんだろうなあ。ただただ、特性が違うだけなのにさ。心臓が脳の代わりをすることがないように、脳が心臓の代わりを果たすことも出来ない。脳が心臓を馬鹿にするなんてことは、無意味なのだ。

こういう特性というのは、一体どこからやってくるのかさっぱり見当もつかない。遺伝子レベルかもしれないし、環境因子によるものかもしれない。占星術などで言うような運命的なものかもしれない。とにかく、個体差として違いがありそうだってことだけが表層として見えている。

見えていて、それなりに沢山の人が認めているのだから、その前提に立って協力体制を構築するのが良いのだよね。ぼくが苦手なことを、全く苦に思わない人もいるんだ。

以前、東海道シンポジウム掛川日坂宿大会を主催した。実務の部分では友人にかなり助けてもらったし、なんならぼくはあんまり仕事をしなかった印象が強い。言い出しっぺなのに、細かいスケジュールも打合せの進行も、企画の立案から修正まで、ほとんど彼がやってくれた。ぼくのほうでも彼に頼る気持ちがあるから、書類の作成なんかはお願いしちゃっていたんだよね。まぁ、何も言わなくてもドンドン進めちゃうんだけど。

ある時、彼から連絡があって○○さんに説明して協力を得たいのだけれど、難航しているって言うのね。メールやチャットツールで通じるとは思えなかったから、ぼくから電話するってことにしたんだ。サクッと電話して、時間作って会いに行って、でもって楽しく会話して帰ってくるだけ。ただそれだけのこと。ほとんど負担なし。でね、彼にOKもらったよって話したのよ。そしたら、こんな面倒なこと頼んじゃってごめんだって。いや、こちらこそ書類作ったりタイムテーブル組んだり面倒くさいことやってもらっちゃってごめんって思ってるのに。そう言ったら、そこはほとんど負担感じてないって、彼はそう言ったんだ。もうびっくり。

イベントが終わって打ち上げのとき、みんな同じようなことを言うの。あんまり協力できなかったけど、良かった。他の皆さんが頑張っているのに、自分だけ仕事できていないって。これ、スゲーことじゃないかな。ほとんどの人が、得意なことしかしていないんだよ。なのに、運営が回るって奇跡。

まぁ、実際のところは友人の彼が核になっていたと今でも思っているけどね。

今日も読んでくれてありがとうございます。ホント、みんながみんな特性を活かすだけで事業が回るっていうのが理想なんだよね。それがどれだけ難しいことか。ほら、自分の価値観で判断しちゃうから。価値観のモノサシが近い人同士で集まっちゃうんだよね。わかっちゃいるのだけれど、実際に成立させるのってなかなか難しいもんだね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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