今日のエッセイ-たろう

文化を越境するモノ。 2023年11月28日

休みの日、珍しくミリタリーテイストの服装だった。先日、たまたま見かけたベースボールキャップを気に入って購入。なんとなく、キャップに合わせて洋服を選んでいたらそんな格好になってしまった。

改めて所有している洋服を眺めてみる。テーラードジャケットにライダースジャケット、チェスターコート、デニムパンツ、スラックス、Tシャツ、パーカー、ポロシャツ、セーター。それなりに、いろんなバリエーションがあるものだ。ボロボロにならないと服を捨てないので、気がついたらそれなりの物量になってしまっていた。

日常着という表現が良いのかわからないけれど、休みの日に出かけるときに着る服は、いろんなジャンルのものを組み合わせている。例えば、デニムパンツにポロシャツとテーラードジャケットという組み合わせ。デニムパンツはゴールドラッシュと呼ばれた時代に、とにかく丈夫であることを目的に作られた「労働のため」のものだ。ポロシャツは、その名の通りポロ競技のためのシャツ。スポーツをしていて、襟がパタパタしてしまうと邪魔になるものだから襟をボタンで止めたとか。つまり「スポーツのため」。テーラードジャケットは、その呼び名が固定されているのがおかしなくらい。紳士服の仕立て屋が採寸して作るジャケットのことだったはずだけれど、いつの間にかスーツのようなジャケットのことも指し示すようになった。これは「ドレスアップ」の服だ。

それぞれの服には、それぞれの文脈がある。ファッション文化とは、いろんな文化の組み合わせから成り立っている。言い換えると、ファッションというものは、それ単体で成立しているのではなくて、他の文化と連動しているということのように思える。

料理や食材は、いろんな文化を「越境」してきたように見える。最初のスシは保存食だったし、貴族などの食卓に並ぶものだった。貴族文化から展開して、庶民へと引き継がれた。そして庶民文化に合わせて変化が生まれた。握り寿司は海外へと伝播して、これまたそれぞれの国の文化を取り入れながら、新たな日本食へと変化している。

社会の中の階層を飛び越えたり、国や地域という物理的な文化圏を越えたりしているが、服のような越境もあるかもしれない。そういえば、いなり寿司と巻きずしがセットになった助六は、歌舞伎鑑賞のときの弁当だ。いなり寿司も巻きずしも、その成り立ちは演劇とは関係なさそうだったけれど、助六寿司は歌舞伎という文化の中で生まれたものだと言えそうだ。

手軽に持ち運べるという意味では、おにぎりは旅のための料理になるのだろうか。梅干しも板海苔も弁当のために誕生したわけじゃないけれど、旅という文化の中ではおにぎりとセットになった。駅弁のなかには、おにぎりと漬物とお茶の組み合わせがある。今ではちょっと珍しいように思えるけれど、昭和の頃には手軽な弁当の定番だったように記憶している。仏教の伝播と並走して日本中を旅した茶の文化は、今でも形を変えて旅をしているようだ。新幹線などでは、手元にペットボトルに入ったお茶を置いている人を見かけることも少なくない。

身近に存在しているモノは、なにかしらの文化と連動して存在していると言えるのかも知れない。発明された時の背景となった文化。それが誤読されて異なる文化で用いられるようになり、また別の文化を背景に変化していく。

日本は魔改造文化と言われることがあるけれど、もしかしたらモノが文化を越えていくことと関係があるのだろうか。越境前の文化や文脈を知ってか知らずか、越境後の文化に合わせて利用していく。自分たちにとって心地良い状態にカスタマイズしただけ。それを遠い未来から振り返ってみると魔改造しているように見えるとか。

今日も読んでくれてありがとうございます。ベースボールキャップは名前の通り野球競技のためのものなんだけど、軍服と軍帽で競技をしていた頃の名残らしいよ。それが、今ではストリートファッションの定番にもなっているんだから面白いよね。これからも、いろんなモノが越境して新たな文脈を紡いでいくんだろうな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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