今日のエッセイ-たろう

東日本最大の歴史観光地「東京」 2024年11月19日

東京は歴史的観光資源の宝庫だ。いや、東京「も」といったほうが良いのかもしれない。日本全国、どこに言っても語るべき歴史を持たない地域なんて無いだろうから。それでもやはり東京は特別だと思う。日本文化の精神的象徴とも言われる京都と比べても遜色ないレベルで、だ。

東京の歴史は、数が多い上に比較的わかりやすい。これが、ぼくの感じる東京で、観光資源としてとても優れていると思っている。

まず第一にアクセスしやすいのがいい。密集しているのだ。東京は世界的に見ても交通網が発展していて移動の自由度が高いのだけれど、仮に地下鉄を利用せずに徒歩で散策するだけでも見応え十分だ。先日、東京駅を中心にテクテクと歩いてみたのだけれど、その間にいくつの物語の痕跡をみつけただろうか。途中、いくつもの地下鉄駅を見かけたけれど、もし地下鉄に乗っていたら発見できなかっただろう景色もたくさんあった。

景色や建造物がちゃんと残っていなくても、カタチがなくなっていても、そこには語ればおもしろい物語がある。そんなポイントが無数にあって、しかもそれらが密集しているのだ。ぼくが本気で観光したら、日本橋界隈だけで1日以上は時間がかかる。2日あっても足りないかもしれない。楽しみ方さえ知っていれば、まるでそこはテーマパークの如きエリアなのだ。そんなエリアが広がっていて、その広さは巨大テーマパークの及ぶところではない。それが東京の中心部である。

しかも、歴史がわかりやすい。遡ったとしてもせいぜい400年程度であるから、平安や室町の文化に思いを馳せるよりもずっと想像しやすいのだ。もちろん、現代の文化とは大きく違うけれど、比較的理解しやすい。歌舞伎や浄瑠璃のような演芸は、能や猿楽に比べて現代的感覚に近い。笑い話も逸話も少々デフォルメされているけれど、それが現代人の感覚に近くて「盛っている」感覚すらもわかる。なにしろ、江戸時代の文化は庶民のものもかなり多い。それを愛でるぼくらが庶民的であるのだから、どことなく親近感を覚えるのかもしれない。確かに読み取らなければならないような当時の常識というのはあるけれど、それも複雑なものではないので、一度聞けば「あるある」話でしかない。

ほんの2時間弱だったけれど、久しぶりに日本橋から鎌倉橋あたりをブラブラと散策して、とても楽しかった。ちょっとした痕跡をみつけては、脳内で当時の様子を再生してみる。慣れてしまえば、これが中々便利なもので、機械に頼らなくても独自にARを楽しめるのだ。これを妄想という。痕跡がなければないで、無いということも楽しめるのだから、これはまた奇特な精神性なのかもしれない。

外堀の水面を眺めては、往来する和船を想像し、魚河岸へとこぎつける姿を思い描く。風呂敷包を抱えた江戸の町人や、天秤棒を担いだ棒手振りが日本橋を渡っていく。

ふと周囲を見渡してみると、どうやら他の人たちには見えていないらしい。もちろん、ぼくの妄想なのだから他の人にも見えていたら怖いのだけれど。それにしても、いま自分たちが歩いているその場所が歴史的遺物の上であるという意識もないように見える。きっとみなさん、東京という歴史観光地の価値をご存じないのだろう。と偉そうに言ってみたいところだけれど、それも意味がない。ぼく自身、都会人として過ごした15年ほどの間で、江戸観光をするようになったのは最後の3年程度。それまでは、なんの意識もせず、ただただ労働する場所という認識でしか無かったのだ。

実は、これこそが東京の観光地としての最大の弱点である。

知識を総動員して目を凝らして見れば、そこは日本最大のテーマパークであり、人工的に作られたテーマパークの及ぶところではない。しかし、分かる人にしかわからないのだ。物語やビューポイントを知らないことが問題なのではなく、そこがそういう場所だという認識がないほどにわからない。江戸から東京府への物語は、現在ではベタ塗りされているのである。

京都と比較してみればわかる。ローマでもパリでも良い。そこにどんな物語があって、どんな素晴らしい遺物があるのかを知らなくても、少なくとも歴史の物語の上に立っているという自覚くらいはあるだろう。東京はそのポテンシャルが分かりづらい町になっているのだと思う。

日本橋界隈には魚河岸から発展した日本文化が集積している。室町も銀座も京橋も、同質のエリアであるはずだ。これをもっとわかりやすく表現する必要があるのだろう。そう、誰でも気がつけるように、シンボルとなる建造物や案内人が必要なのだ。もっと言えば雰囲気づくりだろう。妄想を促すだけの何かが有れば良いのだから、天守閣のようなド派手なものはなくて良い。妄想を促すきっかけとなるなにかと、妄想の材料となる情報があれば良い。

今日も読んでいただきありがとうございます。例えば、江戸料理を提供する江戸時代のままの小料理屋を復刻してみるとか。そこでは当時のコスプレを楽しむことが出来るとか。そうだ、三越の前に蕎麦や天ぷらの屋台があったら面白いのにな。食品衛生はなんとかならないかな。だいたい、17〜18世紀の庶民文化を楽しめる町なんて、世界中探したったそうそう見つからないんだよ。その時代に庶民文化があるということが珍しいんだから。江戸文化が好きなぼくとしては、とってももったいないと思えてしまう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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