今日のエッセイ-たろう

淡々とした作業を面白くするライフハック。 2025年4月11日

オモシロイと思っていた企画も、いつの間にかつまらなくなってしまうことがある。こんな事やってみようとか、こうしたらどうだろうか、そんなふうに企画を練っていたとるが一番楽しいという。到着地よりも道中を楽しむ旅みたいだ。

楽しいとか面白いという気分が薄くなってしまうのは、それがタスクになったとき。あれもこれもしなくちゃいけない。自分自身で立ち上げた企画だったとしても、いつのまにか自分で決めたタスクに振り回されてしまう。それでも、初めてのときは達成感があるのだけど、繰り返しになってくるとタスクという感覚が強くなってくる。ネバナラナイばかりだと、世界は退屈になるのかもしれない。

料理も似たようなもので、献立を考えてから完成させるまでが一番楽しい。飲食店で定食を作っていると、毎回同じ作業になるので新鮮さもなくなり、だんだんタスク化していく。数をこなしていくうちに、感情を封印して淡々と作業だけを繰り返すようになる。

実は、ここにライフハックのヒントが潜んでいる。

勝手に課題設定して、勝手に攻略していくのだ。

なに。簡単な話だ。一つ一つの作業や料理そのもののクオリティを上げていくのである。場合によっては、付け合せ惣や小鉢の内容を変えても良い。味噌汁の具材や味噌を変えても良い。チェーン店のように、あらかじめ食材がパッケージングされていると難しいのかもしれないけれど、個人店や自由度の高い飲食店は多い。まして、自炊ならなにをやっても自由なのだ。

ぼくなんかは、恵まれている。会席料理というのは料理内容は作り手の自由ということになっている。毎回同じ料理をつくり続けているとちょっと飽きてくるのだけど、そのときは「どうやって驚かせてやろう」とか「こんなふうにしてみたらどうだろう」と色々とやってみる。

そう。これは手段の目的化だ。

よく、ビジネスの文脈では良くないこととされている現象。定めた目標を達成するために存在する工程。にも関わらず、手段の質や効率化などにこだわって目的を失ってしまったときに言われる。確かにその通りで、食事をするお客様が「美味しい」「楽しい」と感じられることが第一の目的だから、「目的に繋がらない」というチャレンジは無駄である。それに「あったら良いかもしれないけどあまり寄与しない」というチャレンジはも意味がないと言われることもある。

だけど、作り手にとっては意味がある。そのほうがオモシロイのだ。新たな工夫がうまくハマったときは、誰にも気づかれなくても心のなかでガッツポーズをする。ホントは、誰かに気づいて欲しいという気持ちもあるから、褒められるととっても喜ぶ。お客様に喜ばれる、という方向さえ外さなければ、売上に直接貢献しなくてもやる。これは、ホスピタリティとも言えるし、自分のためのライフハックでもあるとも言える。

日本はそういうことを積み重ねてきた技術大国。もっと有り体に言えばオタク、凝り性がやたらと多い国である。伝統的なものづくりが海外からの高い評価を受けているのは、ご存知だと思う。が、特に日本らしいと思えないもの、例えばウィスキーや洋菓子、チョコレート、ピザの世界大会でも常に上位にいる。日本の町を散策すれだけで外国人観光客が驚くのは、日常の(日本人にとっては当たり前の)ちょっとした工夫。凝り性なオタクっぽい細部のこだわりが、グローバル視点では異常なほどに多いという。

こうした国民性はどこからやってきたのか。海外貿易を行ってこなかったから、限られた社会の中で差別化するポイントが微細になっていったということもあるだろう。比較的時間を持て余していたのかもしれない。もしかしたら、毎日同じことの繰り返しのなかで、それでも面白がれるポイントを探し続けた「遊びの達人」とも言えるのじゃないだろうか。

今日も読んでいただきありがとうございます。グローバル市場では、日本の技能職人魂は世界でも類を見ない強みだと思うんだよね。手工業だろうが大量生産だろうが、やっぱちょっとおかしいと思えるくらいに凝り性だもの。だけど、なんでだろうね。国内では技能職人の評価が低いんだ。いや、びっくりされるし尊敬されるんだけど、それが対価となって現れないんだ。クオリティの高い技能を持った人の仕事は単価が高くて当たり前だと思うんだけど。なんでだろうね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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