今日のエッセイ-たろう

豊かで美しい言葉を扱えるようになりたいな。 2024年1月25日

ずいぶん若い頃、よく詩を書いていた。正確には歌詞。10代から20代の間はバンドをやっていて、オリジナル曲を演奏していた。特にちゃんと学んだわけではないけれど、好奇心とやってみたいという欲求だけで作詞作曲に挑んでいた頃があるのだ。

一緒にバンドをやっていた友人が作曲をしていたので、ぼくはもっぱら歌詞を書いた。当時、巷にあふれる音楽というものは、先に詞があって、それに音を付けていくものだと思い込んでいた。だから、暇を見つけては歌詞っぽいものをたくさん書き溜めていたのだ。

お手本は世の中に溢れかえっている。ちゃんとした音楽理論を学んだ人からすれば、遊びでしかないのだろうかれど、ぼくらには十分だった。好きなアーティストや、売れている曲を購入しては勝手にいろいろと分析しては学んでいった。

当時の流行なのだろうか。それとも、たまたまそういう曲を選んでいただけなのだろうか。「愛」という単語は、頻出語彙だったような気がする。そういえば、恋愛をテーマにした楽曲がとても多かった。今でもそうなのだろうか。それほどまでに世の中の関心事が恋愛に集中しているとも思えないのだけれど。だからこそ、一部の中年は流行音楽から距離が出来てしまうのかもしれないと勘ぐってしまう。

愛という言葉は、なんだか便利みたいだ。恋人同士でも、家族でも、親子でも愛という感情はある。みんなまとめて「愛」という言葉で表現しようと思えば出来てしまいそうな感覚もある。だけど、なんだか味気ないような気もしている。

情だとか、惚れるだとか、いとおしいとか、慈しむとか、大切に思うとか、他にもいろんな言葉で思いを表すことは出来るはず。むしろ、愛という言葉を現代のような感覚で使い始めたのは近代になってからのこと。と、高校生の頃に聞いたことがある。当時好きだった漫画に戦国武将の直江兼続が登場していた。彼の甲に掲げられた前立が「愛」の一文字であったことが不思議で、質問したのを覚えている。あれは、愛染明王の愛だそうだ。人やモノに執着することを愛染。そして、執着心から生まれる悩みや迷いから解き放って、生きとし生けるものを救済するのが愛染明王。ということらしい。

そういえば、若い頃に祖母にぽつりと言われたことがある。今どきの人たちは、何でも「スゴイ」とか「ヤバい」っていうのね。もっと本を読みなさい。素敵な表現がたくさんあるから。と。

ヤバいってうのは、元々アウトローの世界の言葉。法に触れるとか、そういうニュアンスの言葉なのだそうだ。

伝わるかどうかだけを考えれば、前後の文脈や雰囲気で伝わることもある。けれども、なんだかもったいないという気持ちもある。どう表現したら良いのかな。夏の抜けるような晴天の空の色も、冬の朝の空の色も、葛飾北斎が描く神奈川沖浪裏も、どれも青といえば青。仮に色鉛筆で絵を描くとして、青の表現が一色というのは寂しい。表現の幅が狭くなるような気がする。

会話であれば、言語以外の情報がとても多いから成り立つような気がしている。それでも会話する相手との関係性によって、様々に伝わり方が違うだろう。だからこそ、美しく多彩な表現を上手に使いこなせるようになりたいと思っている。と、そうは言いながらも語彙が少ないので、多彩な表現が出来ないのがもどかしいのだけれど。

今日も読んでくれてありがとうございます。大人になってから恩師と会話をする機会があったんだけどね。会話の所々で理解できない単語があって、腰を折ることしばしば。先生の伝えたいニュアンスを適切に表した熟語も、他の言葉に置き換えるととても長くなってしまうという体験をしたんだ。かといって、あんまり知られていない単語ばかりを使っていても、伝わらないっていうこともあるんだよね。と、本を読みながら頭を抱えることもしばしばです。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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