今日のエッセイ-たろう

食産業を切り分ける軸を考えてみる。 2022年8月3日

飲食店をやっていると、いろんな営業電話がかかってくる。それ自体はまぁ、かまわないのだけどね。ぼく自身も、前職ではテレマーケティングの運用をしていたこともあるし。だからこそかもしれないのだけど、どうも、しっくりこないんだ。いろいろと。愚痴みたいになりそうだけど、どちらかというと構造に興味があってね。どう整理すると良いのかを考えてみる材料になりそうだと思ってさ。

一番よくあるのは集客アップに関する営業電話。でね。その中でも最も多いのが、webやメールを活用したセールスの仕組みなんだ。メールは一部プッシュ型のようだけれど、基本的にプル型の営業を支援するということらしい。

プル型というのは、英語のPULL、つまり引っ張るという意味から「待ち受ける」スタイルの営業。ガンガン手紙やチラシを送るのではなくて、お客様の方から興味を持ってもらうというスタイルをこのように呼ぶ。逆にプッシュ型というのは、企業が能動的に情報を届ける手法だ。プッシュ型の究極は訪問販売や飛び込み営業かな。

電話口の無効では、魅力をしっかりと発信すれば、お客様に見つけていただくことが出来ます。最初に作り込んでしまえば、企業側の稼働が少ないですよ。私たちはその手法に長けているので、お任せください。と言う。だったら、自分の企業がそうなってなくちゃおかしいんじゃない?テレマって思いっきりプッシュ型だけど?というツッコミを入れたくなる。これはどうもしっくりこない。プッシュ型の営業をしなければ顧客を獲得できないプル型営業の提案。謎なんだよなあ。

そもそも、だ。無理やりプッシュだプルだと型にはめて考えるのであれば、両方を実施するのが基本。総合的に見てどちらにどの程度のパワーをかけるか、というのは経営判断。ここをすっ飛ばしてプル型最高っていうのはね。ちょっと短絡的じゃないかな。両面展開や経営方針を理解した上で、プル型の部分を委託してもらいたい。そういう提案の方が良いのじゃないだろうかというのが、ぼくの営業マンとしての思考。

気持ちはわからなくはないけどね。売上を上げようと思ったら、費用対効果を考えたら、とか想像はつくから。でもまぁ、上辺の提案でハマると搾取型のビジネスモデルに陥りやすいから気をつけないと。搾取する気がなくてもそうなってしまうことがある。という意味でもね。搾取する気があるのは問題外。

ツール系も結構多い。ここ数年は物販サイトや予約サイト。パンデミックの影響で、既存の飲食店は事業をピボットする必要に迫られた。だから、あちこちでテイクアウトを始めたり、スーパーなどで弁当の販売をしたり、料理教室に冷凍食品などへも流れ込んだ。

そりゃそうなるよ。既存のビジネスモデルでは難しいのは周知の通り。

飲食店周りのツールは今のところ使い勝手があまり良くない。というのは、だいたい合ってるんだけど細かなところでうまくいかない。例えばレジアプリ、顧客管理、予約管理などをいくつか試したんだけどね。うまく合致しないのは当然で、ひとつのツールをたくさんの飲食店に販売しようと思ったら、ジャンルごとに特化することが出来ない。スタイルを合わせるなら、最も多い業態に合わせる。ということになる。うちみたいな料亭は少数派だろうから、システムを運用するにあたっては運用をカスタマイズすることになる。当然と言えば当然。ホントにピッタリハマるシステムが欲しいなら、汎用品ではなくてオリジナルを開発するしかない。

経済合理性を考えれば、当然のことだよね。

さて、これらのことから何が言えるのかということを考えてみる。たぶん、食産業のカテゴライズがマッチしていないんじゃないかと思うのだ。外食産業というカテゴリだと大きすぎる。一方で、レストランや居酒屋やバーなどの括り方では細かすぎる。という気がしてきている。

じゃあ、どのように捉え直したら良いのかというと、それもまた難しいのだけれど。

そうだな。日常食とそれ以外に分けたらどうだろうか。外食も中食も内食も、一旦はハレとケに分ける。つまりは、目的別ってことか。日常食というのは、お腹が減ったから食べる食事のこと、といえば良いのかな。語弊があるけれど、究極的には生命維持のために必要な栄養素を接種できれば良いのである。なんならお腹が膨らめば何でも良いという人さえいる。凝った調理や飾り付けなど無用。演出なんてなくても良い。ここを、横軸の端っこに置く。

ハレの食事は、お腹が減っていなくても食べることがあるような食事だ。ということは、食べ物は主役ではなくなってくる。中心軸ではあるけれど、主役ではない。主役は人であり空間であり交流であり儀礼だ。

別なものに置き換えてみよう。

役に立てば良い。デザインなんて無骨で美しくなくても、必要な機能を満たしてくれればそれで良い。というのは、例えば車だったら走れば何でも良いという考え方に近いのだろうか。ハサミは切れれば良いし、器は食材を載せることが出来ればそれで良い。反対側にあるのは、美術品かな。博物館に飾られた刃物は、ものを切るということがない。もはや本来の機能を果たしていないのだから、それはハサミじゃないんだろうけど。高級な器は、そうやって愛でることもするし使うこともある。愛でることで、ただのお皿にはない価値が生まれているね。そのうえで料理を盛ることも出来る。

こういうふうに一本の軸の上で、グラデーションになっている。ということにしてみる。日常の食事をちょっとおしゃれに演出したものがあって、それは真ん中よりもちょっとアートに寄ったものだろうか。デザインと読み替えても良い。割合を明確に示すことは難しいけれど、食事はハレとケのグラデーションになっているようにも見える。

前半はデジタルツールの話だったけれど、他にも食に関するテクノロジーにも同様のことが言える。この商品は、グラデーションになった軸の上ではどの辺りにマッチングするのかということを整理してみたらどうだろうか。意外と、うまいことハマるんじゃないかな。

今日も読んでくれてありがとうございます。日常食の中でも食材にこだわることってあるよね。キュウリはキュウリ。だけど、それぞれの品質の違いがある。とするのがアート寄り。で、一緒だよねってするのが工業寄りと。良い言葉があると良いな。ハレとケでもないし、アートと工業でもない。言語化したいなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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