今日のエッセイ-たろう

まちのPRのための食事と料理の予算。 2023年4月21日

ときどき、各種団体から料理のご注文をいただくことがある。市役所だったり商工会議所だったり観光協会だったり、はたまた任意団体だったり。お茶を使った料理をご依頼いただくこともあるし、掛川らしさを表現した料理という依頼もある。それは、とてもありがたいことだし、少しでも町のPRに繋がることであれば協力させていただきたいところではある。

いつも問題になるのは料金。予算がこれしか無いので、なんとかこの範囲に収めて欲しいという話がとても多いのだ。ぼくも、団体のメンバーであることもあるので、気持ちはわかるし、懐具合もよく分かる。なのだけれど、だからといって、お店の赤字を出すわけにもいかない。質を落とすことも不可能ではないけれど、2つの意味で良くないことがある。

ひとつには、ロスが大きいことだ。食材の種類にもよるのだけれど、普段仕入れている食材よりも質の低いモノを仕入れることは、避けたい。それは、店の価値を下げる行為でもあるし、食材のロスが発生することにもなる。仮に、注文者が質の低下を了承してくれたとしても、余剰の食材をどう使うかが問題なのだ。通常の会席料理のクオリティに耐えられないのであれば、それらは全てまかない食にするしかない。ぴったりの分量を仕入れることができればよいのだけれど、だとしても通常の仕込みとは別に仕込みを行うのだから、二重のコストになる。

ロスが大きいと表現したのは、食材と労働力のロスが大きくなって、結果としてコストになってしまう。それを売価に反映させることになれば、更に質を下げることになるだろう。そうでなければ、そのコストを店で負担することになる。

もうひとつは、もっと根本的な問題。そもそも、何のための食事会なのか。それを考えなければならない。例えば、お茶を食材として使った料理やペアリングをご希望される場合。それは、掛川の特産品を体感してもらうことが主眼に置かれている。ただ、おもてなしをして気持ちよくなってもらいたいだけじゃない。特産品の良さを感じて、その上で気持ちよくなってもらうことが大切なのだ。飲んで美味しければ掛川茶のファンが増えるかもしれない。そんな思いがあるから、茶園や茶工場を巡るツアーを組んでいるわけだし、当店にも茶を使った料理という注文をするのだ。

さて、市の主力商品であるお茶をPRするにあたって、料理はどのような効果を発揮するだろうか。それは、映画館で映画を見るような、テーマパークを一緒に歩くようなものと似ているのじゃないかと思う。抽象化すると、身体感覚を使った共通体験を同時にすること、である。そして、その場で感じたことや思いついたことを語り合えることだ。一緒に楽しくなって、感想を交換しあうことは、集団行動の良い側面のひとつである。

個々に旅行をして、同じような体験をすることも出来る。お茶を飲むだけなら、購入して自宅で飲むことも出来る。それはそうなのだけれど、同じ空間にいることによって得られる高揚感は、プロモーションという意味ではとても強力なのだ。

だとすると、体験するコンテンツは重要になる。それらのコンテンツで、手を抜いてしまっては意味がない。中途半端なコンテンツで、いまいち面白みのない空間になってしまうのであれば、別のもので充実させたほうが良い。レベル100のコンテンツとレベル70のコンテンツがあったとして、どちらもマックスのパフォーマンスが出来るのであれば、満足度はレベル100のほうが高い。そんな状況があったとする。しかし、レベル100のコンテンツだけれど、諸事情により半分のパフォーマンスしか発揮できない状況ならば、元々レベル70でマックスのパフォーマンスを引き出したほうが満足度は高いはずだ。

これらのことを鑑みると、食事にかける予算が少な過ぎるのではないかと思うのだ。食を商材としていないのであれば良い。極端だけれど、ゴルフ場やスキー場で食べる食事にはそこまで期待していないだろう。メインコンテンツはゴルフやスキーであって、昼食は昼食なのだ。不味くなければ問題ないよね。ということになる。しかし、食をメインコンテンツに置いた場合、昼食の意味合いはゴルフやスキーとは同じではない。立派にメインコンテンツの一つである。

食事にかける予算の考え方として、ここに認識の違いがあるのだろうと思う。ぼくらは飲食店だし、茶という食を市の産業資源として重視する。だから、こんなことを言うわけだ。それに対して、商材のアピールは別で行うから、昼食は昼食というのもわかる。だとしたら、予算に見合った食事を、特殊な注文などせずに採用すれば良いだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。どこに力点を置いて、予算を配分するか。その辺りのことを、もっともっと真剣に考える必要があると思うんだよね。観光協会の役員としては、他人事ではない。みんなが幸せになれる方法を考えよう。

タグ

考察 (301) 思考 (226) 食文化 (222) 学び (169) 歴史 (123) コミュニケーション (120) 教養 (105) 豊かさ (97) たべものRadio (53) 食事 (39) 観光 (30) 料理 (24) 経済 (24) フードテック (20) 人にとって必要なもの (17) 経営 (17) 社会 (17) 文化 (16) 環境 (16) 遊び (15) 伝統 (15) 食産業 (13) まちづくり (13) 思想 (12) 日本文化 (12) コミュニティ (11) 美意識 (10) デザイン (10) ビジネス (10) たべものラジオ (10) エコシステム (9) 言葉 (9) 循環 (8) 価値観 (8) 仕組み (8) ガストロノミー (8) 視点 (8) マーケティング (8) 日本料理 (8) 組織 (8) 日本らしさ (7) 飲食店 (7) 仕事 (7) 妄想 (7) 構造 (7) 社会課題 (7) 社会構造 (7) 営業 (7) 教育 (6) 観察 (6) 持続可能性 (6) 認識 (6) 組織論 (6) 食の未来 (6) イベント (6) 体験 (5) 食料問題 (5) 落語 (5) 伝える (5) 挑戦 (5) 未来 (5) イメージ (5) レシピ (5) スピーチ (5) 働き方 (5) 成長 (5) 多様性 (5) 構造理解 (5) 解釈 (5) 掛川 (5) エンターテイメント (4) 自由 (4) 味覚 (4) 言語 (4) 盛り付け (4) ポッドキャスト (4) 食のパーソナライゼーション (4) 食糧問題 (4) 文化財 (4) 学習 (4) バランス (4) サービス (4) 食料 (4) 土壌 (4) 語り部 (4) 食品産業 (4) 誤読 (4) 世界観 (4) 変化 (4) 技術 (4) イノベーション (4) 伝承と変遷 (4) 食の価値 (4) 表現 (4) フードビジネス (4) 情緒 (4) チームワーク (3) 感情 (3) 作法 (3) おいしさ (3) 研究 (3) 行政 (3) 話し方 (3) 情報 (3) 温暖化 (3) セールス (3) マナー (3) 効率化 (3) トーク (3) (3) 民主化 (3) 会話 (3) 産業革命 (3) 魔改造 (3) 自然 (3) チーム (3) 修行 (3) メディア (3) 民俗学 (3) AI (3) 感覚 (3) 変遷 (3) 慣習 (3) エンタメ (3) ごみ問題 (3) 食品衛生 (3) 変化の時代 (3) 和食 (3) 栄養 (3) 認知 (3) 人文知 (3) プレゼンテーション (3) アート (3) 味噌汁 (3) ルール (3) 代替肉 (3) パーソナライゼーション (3) (3) ハレとケ (3) 健康 (3) テクノロジー (3) 身体性 (3) 外食産業 (3) ビジネスモデル (2) メタ認知 (2) 料亭 (2) 工夫 (2) (2) フレームワーク (2) 婚礼 (2) 誕生前夜 (2) 俯瞰 (2) 夏休み (2) 水資源 (2) 明治維新 (2) (2) 山林 (2) 料理本 (2) 笑い (2) 腸内細菌 (2) 映える (2) 科学 (2) 読書 (2) 共感 (2) 外食 (2) キュレーション (2) 人類学 (2) SKS (2) 創造性 (2) 料理人 (2) 飲食業界 (2) 思い出 (2) 接待 (2) AI (2) 芸術 (2) 茶の湯 (2) 伝え方 (2) 旅行 (2) 道具 (2) 生活 (2) 生活文化 (2) (2) 家庭料理 (2) 衣食住 (2) 生物 (2) 心理 (2) 才能 (2) 農業 (2) 身体知 (2) 伝承 (2) 言語化 (2) 合意形成 (2) 儀礼 (2) (2) ビジネススキル (2) ロングテールニーズ (2) 気候 (2) ガストロノミーツーリズム (2) 地域経済 (2) 食料流通 (2) 食材 (2) 流通 (2) 食品ロス (2) フードロス (2) 事業 (2) 習慣化 (2) 産業構造 (2) アイデンティティ (2) 文化伝承 (2) サスティナブル (2) 食料保存 (2) 社会変化 (2) 思考実験 (2) 五感 (2) SF (2) 報徳 (2) 地域 (2) ガラパゴス化 (2) 郷土 (2) 発想 (2) ビジョン (2) オフ会 (2) 産業 (2) 物価 (2) 常識 (2) 行動 (2) 電気 (2) 日本酒 (1) 補助金 (1) 食のタブー (1) 幸福感 (1) 江戸 (1) 哲学 (1) SDG's (1) SDGs (1) 弁当 (1) パラダイムシフト (1) 季節感 (1) 行事食 (1)
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

-今日のエッセイ-たろう
-, ,