今日のエッセイ-たろう

補助輪を使って直感力を鍛える。 2023年6月30日

体重計にのる機会はどのくらいあるだろう。身体測定があった子供時代のように、体の変化を数値で定期的に観測する。ということは、大人になると日常ではなくなることが多い。ジムに通っているような人、そうでなくても気にしている人は毎日チェックしているかもしれないが、少数派らしい。「定期的」という言葉がつくと、その数は更に減少するだろう。

そう言っているぼくも大多数の一人である。以前は毎日体重の変化を確認してノートに記録していたこともあるのだけれど、今はそれももうしていない。最近やる気になって体重計を引っ張り出してきたのだけれど、電池が切れていて諦めた。まだ電池すら買っていないままだ。

別に、体重なんて毎日チェックしなくても構わない。毎日の生活に支障はないし、世の中の変化には全く影響はない。ただ、自分の体重を数字で知ることが出来るというだけのことだ。なのだけれど、数値で知るということは案外おもしろいことだ。

直感というか、身体感覚というのは鈍いものだ。自分の体のことだから、太ったかなあくらいのことは実感するかもしれない。なんだかベルトが苦しいような気がするということであれば、胴囲が大きくなっただろうということが分かる。数値にすると、それがどのくらいなのかが分かる。つまり、解像度が上がるのだ。

自分の感覚では捉えきれない情報を外部から仕入れる。という意味では、自分の長所や短所を他人から教えてもらうことと似ている。これも、自分ではうまく観察するのが難しいものだろう。自分では得意だと思っていても、周りの人がそう認識しているとは限らない。思ってもいなかったことが長所だと言われるかもしれない。

あまり数値に振り回されるのは感心しないのだけれど、良い効果のほうが大きいと思うのだ。どうせ僕らの感覚は相対的にしかつかめない。ほとんどのことは、比較するだけだ。

よくあることだけれど、飲食店では味付けが緩やかに長期間に渡って濃くなっていったりすることがある。昨日の味、今日の午前中、右と左。そうやって比べながら、ほんの少し濃いとか薄いという微調整をする。味が変わってしまわないようにしているのだ。けれども、季節の変化だったり、体調の変化だったり、期間限定の特別メニューを展開したりといった別の要因があって、いとも簡単に安定性を失うのだ。自分は真っすぐ進んでいるつもりでも、少しずつ曲がっている。暗闇の中をなんの手がかりもなく歩く時と似ている。

体重計だけではないけれど、世の中にある「目盛り」は、迷子にならないためにあるのだと思う。真っ暗な中であっても、手元にだけはガイドがある。少しだけ先が見えるような明かりを持つ。もっと遠くまで見える明るい光を手に入れる。そうしたものだ。

と、同時に補助輪であって欲しいとも思っている。

自転車の補助輪は、一生のうちで使われる期間は短い。一度乗れるようになってしまえば、二度と使うことはないというプロダクトだ。全く同じとは言わないけれど、出番が減っていくのがよろしいという場合もあるのかもしれない。

体重を減らす。体脂肪率を下げる。血糖値を下げる。などは、健康指標として掲げられる数字だ。たしかに有効なのだけれど、そればかりにとらわれると本質を見失うこともある。そもそも、健康であることが第一の目的なのだ。そのための補助輪として、ガイドとして数字を使っているに過ぎないのである。来週の健康診断のために1週間禁酒するということをしても、自身の健康には直接寄与しないのだ。

数字を補助輪だと思って使う。毎日でなくても良いのだろうけれど、計測した数値と身体感覚を紐づけていく。食事の際の血糖値の変化を測るサービスがあるけれど、それも同じだろう。自分がどんな状態で何を食べたら血糖値スパイクが発生するのか。状態が良いのはどういったときか。スポーツ選手がビデオで自分のフォームを確認するのと同じような感じだろうか。身体感覚と数値が一致するようになれば、直感が鍛えられていく。

直感が鍛えられることの最大のメリットは、コストが激減することだ。考える時間もかからなければ労力もない。ほとんどエネルギーを消費しないしストレスもない。専門技能を職能としている人ならば、体験したことがあるだろう。職人の勘というけれど、だいたいは無意識のうちに取得したデータを、また無意識に解析した結果であろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。直感を鍛えるって、結構時間がかかるんだよね。料理をしていても、なんとなくこうじゃないかなってことで当て推量が出来るようになるんだけど。底に至るまでに長い経験が必要になる。それを補助してくれるのがレシピとか基礎なんだろうね。時間がかかるから合理的じゃないようにも見えるんだけど、長い目で見ると合理的な行動なんだと思う。うん、とりあえず電池を買いに行ってこよう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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