今日のエッセイ-たろう

無ければ無いなりに、有るもので楽しむ。 2023年11月11日

最近のテーマというか、きっと大切なことなんだろうなと感じていること。それは、「無ければ無いなりに、有るもので楽しむ」ということだ。

例えば、料理を作ろうとしてレシピブックを開く。あぁ、これを食べたいな。と思って食材を準備しようとしたところ、なんだか足りない。ちょっと変わったスパイスを使っているとか、冷蔵庫に入っていない野菜だとか、そもそも今の季節には手に入らないよっていうこともあるかもしれない。

でも、何も心配いらない。いま、手元にあるものでやれるだけのことをやってみる。なにかが足りないという状況から突発的に浮かんでくるアイデアとか、工夫する工程を楽しむ。結局さ。食べてみて美味しければいいの。レシピとは違うものになっちゃったけど、これはこれで美味しいよねっていう経験をしたことがあるという人は少なくないと思うんだ。

何度も同じことを繰り返しているようだけれど、料理というものは「たまたま手に入った食料をどうにかして食べる」というところから始まったと思うんだ。次はいつ手に入るかわからないから保存しておこうっていうモチベーションもあるか。とにかく、調理の対象は「いま、目の前に有るもの」である。

「無い」。この状況を打開しようとして、「有る」に変えようとする。それはそれで工夫が生まれる。けれども、ひとつやり方を間違えると、誰かのものを収奪することだってある。歴史を振り返れば、他の地域の人々から武力や財力などを使って収奪してきた事実がある。それに、相手が人じゃなくて、動物や自然界の何かを「過剰に」持ってくるということもあった。

過去形で表現したけれど、きっと今でもそういう事例はあるのだろう。

京都先端科学大学の川上教授が「不便益」というのを研究されている。便利にしてしまうと残念なもの。逆に不便だからこそベネフィットがあるもの。そういう事例からものづくりやシステムのデザインを研究するという意味だと解釈している。なんとなくね。

川上先生の話で、個人的に気に入っているのは「遠足のおやつは300円まで」の話。もし、この不便がなかったら、家にあるお菓子を適当に持っていくかも知れないし、お母さんに買ってきてもらったものを持っていくだけかも知れない。制限があることで、前日にスーパーやコンビニで、真剣に選ぶのだ。ギリギリ300円に近づける。大人になってから、このネタで話が盛り上がることだって有る。

いろんな知恵は、「無い」ところから始まる。「無い」をそのまま受け入れるのも良いのだけれど、そこから「どの方向へ向かう」のかが大事。今よりは少しでも豊かになりたいと思った時に、物質的に「有る」にして豊かになるのか、それとも工夫を「楽しむ」ことで豊かになるのか。そういう話なんだと思うんだ。

足るを知るという言葉があるけれど、それとはちょっと違うのかな。ミニマリズムとは違うよね。

たまたま、遭遇した状況に柔軟に対応していくこと。その行為自体を楽しむ。

という感覚かな。

江戸時代の人たちって、別に循環型の社会を作ろうとか、エコだとか考えていたわけじゃないと思うんだ。みんな、一生懸命に目の前の状況に対応していた。庶民に広まった精進料理的な思想だって、ホントの意味での精進料理とは違うだろう。なんとなく、そういうのが楽しいよねって。豆腐だって、代替肉じゃなくて、こうしたら美味しくなるとか、こんな方法もあるよって知恵を出しあっていたんじゃないかな。

楽しいんだ。シンプルに。豆腐百珍があんなにベストセラーになるなんて、そういうことかもよ。生活の便利帳的な側面もあっただろうけれど、生活の楽しみ方のアイデア集という側面。

今日も読んでくれてありがとうございます。うちの店には、献立がない。いや、無いことはないのだけれど、「今月はこれ」「秋はこれ」みたいに決めちゃわない。だって、どうしても無理が出るから。季節の料理って、いつもグラデーション。秋という区分だって、随分あいまいなんだもの。無理すると、晩秋に初秋の食材を探し回らなくちゃいけなくなる。場当たり的なんだけど、それが楽しみなんじゃないかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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