今日のエッセイ-たろう

「片付け」は「記憶術」そのものだ。 2023年5月16日

世の中には二種類の人間がいる。それは、片付けができる人と、出来ない人だ。と、誰が言ったかしらないし、言った人がいたのかも知らない。でもまぁ、そうだろうとは思う。

片付けをするとか、掃除をするということは、概ねいろんな場面で大切なこととして扱われている。職場であれば、きちんと片付いた環境のほうが、業務効率が高いことは実証されているらしい。どんな実証のされ方があるのかわからないけれど、そんなことを気にしなくても体験的に知っている人も多いだろう。

有るべきところに有るべきものがあり、作業を行うスペースは広く余裕がある。真逆の環境を思い浮かべれば、思考負荷が少ないのが前者であることは間違いない。必要な道具がどこにあるかわからないと、それを探したり思い出したりする手間がかかる。まれに、ランダムに散らかった部屋の中で全てのものの位置を把握しているという人がいる。しかし、その行為そのものが脳の負荷を挙げているというのが定説だ。

完全に一人っきりの環境ならば、そのうえモノが少ないのならば構わないかもしれない。けれども、職場や家族と暮らす家庭ではそうもいかない。なにしろ、様々なモノゴトを共有して暮らしているのだ。家族で共有している歯磨き粉が毎回違うところに置かれている。となると、置いた人以外の家族は、それを探すという手間が発生する。なるべく、脳の思考不可を減らしたくて定位置を決めていて、全員が楽に暮らせるような工夫なのだ。だったら、毎回同じ場所に置いたほうが効率的だ。

この場合、「有るべき場所」を共通理解していなければならない。情報共有だ。当たり前といえば当たり前なのだけれど、案外このプロセスを疎かにしているケースが多いらしい。

例えば、キッチンで使う食器を仕舞う場所を変更する。変更した本人は、使い勝手をより良くするためだったり、空間効率をよくするために行っているという意識である。しかし、それを家族と共有しないということがある。キッチンは私しか使わないから良い。というのは本人がそう思っているからに過ぎないのであって、他の人だって使うことが有るのだ。善意で手伝ってくれる場合もある。そうしたときに、モノの置き場所がわからないのはストレスになるだろう。

「置き場所を変更しておきながら、その情報を共有しないのは、モノを隠したのと同じである。」

ぼくならば、そう言う。実際、職場で言っている。

互いに快適に生活するためのルールなのだ。情報公開していないルールはルールではない。

片付けには、もう一つ厄介な問題がつきまとう。どこにしまったのかわからなくなる。経験のある人も多いだろう。大切なものだから、きちんとしまっておこう。片付けるときには、そう思ってしっかりと整理しておく。ただ、使用頻度が低いものに限って、しまった場所がわからなくなってしまう。

こういうことが起きるたびに思う。人間は忘れる生き物なのだ、と。

片付けとは、つまりは記憶術なのだ。全ては脳の記憶容量をどう取り扱うかという話に集約される。冒頭の例の通り、収納場所を思い出すというのは脳にとって負荷になる。なるべくならば、それをしないほうが良い。脳だってエネルギーを使うのだから、もっと有益なことにエネルギーを振り向けたいわけだ。一部の経営者が毎日同じ洋服を着ることにしているというのと同じ原理だ。

だから、しっかり片付けても記憶できていないのであれば、それもまた片付けたことにはならない。出来れば、記憶しておかなければならない情報量は少ないほうが助かる。ということになる。

使用頻度の高いモノは、ピンポイントで置き場所を固定する。毎日使うものであれば、覚えておくという脳の働きはコストが低くなる。ほとんど無意識である。これはいい。では、使用頻度の低いものはどうするのが良いだろうか。これが、実は問題なのだ。

使用頻度の低いものは、分類分けをしてグルーピングする。洋服であれば「冬物のシャツ」とか、場合によっては「冬物」くらいの大きなカテゴリにする。そして、そのグループの置き場所を記憶する。探すときには、探すべき対象が冬物であることさえわかれば、大雑把な場所を特定できるから、その中から探し出すわけだ。探すという手間が発生するのだけれど、それは長期記憶の負荷とトレードオフの関係にあると思って諦めるしかない。というのが、一般的なのだろう。

いま、はたと気がついたのだけれど、こうした片付けの手法は学習と似ているのではないだろうか。学習のうち思考方法も重要だけれど、多くの情報を記憶していることも重要だ。もっと大切なのは、必要な情報を必要なときに引き出すことである。

グルーピングしておくのだけれど、脳内の場合は仮想空間なのだから、同じ情報を別々の場所に格納することも可能だ。むしろ、瞬時にグループを入れ替えることすら出来る。僕の場合は、タグ付けして検索するというのに近いかもしれない。類似情報を必要に合わせてグルーピングし直す感覚だろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。たった今、ただの思いつきなんだけどさ。もしかしたら、使い勝手の良い片付けが出来るように訓練するって、学習能力の引き上げに繋がらないかな。どうなんだろう。そんなことある?あるとしたら、きちんと片付けしなさいっていうのも、教育の一部としては良いことかもね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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