今日のエッセイ-たろう

価格と価値のバランスを考える。 2022年11月3日

びっくりするくらいに経費がかさんでいる。もうね、これは経営を大きく見直さなくちゃいけないよ。原材料も値上がりしているし、電気ガス水道も値上がりしている。節約はするけれど、それも限界だよなあ。なにせ、昨年対比でも40%も値上がりしているのだ。

生産コストが上昇している。しかし、値上げすると叩かれる。これは困った話でね。価格を上げると客数が減るのはしょうがないんだ。そういうものだからね。だけど、叩かなくたっていいじゃんね。

偉大な経営者の一人である稲盛和夫氏は「値決めは経営」と言った。いろんな書籍や講演で紹介されているから知っている人も多いだろう。

価格を決める方法は、みっつの方法がある。

ひとつは、経費から逆算する方法だね。原価がいくらで、それに人件費とか諸経費を上乗せするとこのくらいになるって。そういう考え方かな。飲食店などは、この考え方で価格設定をしているところが多いよね。

もうひとつは、市場とのバランスを見て決める方法。競合店だとか、他の産業の価格と見比べて相対的に考える。妥当性を直観的に決めていくんだね。データ取得して試算することもあるけれど、割りと社会の実勢に合わせる感覚。

そして最後に、客数と客単価のバランスを見て決める方法。雑に説明するとこうなる。値段を下げると客数が増える。値段を上げると客数が減る。このバランスの中で最適解を求めていくという考え方ね。

これはあくまでも、僕個人の整理の仕方だ。勉強したことと経験から、こういうことだろうと考えている。こういった整理をしておくと、考えやすいから。というだけのこと。でね、この背景には「直観的な価値観」がつきまとうんだ。

商品を購入するときには、消費者の感情が大きな要因を占める。手に入れた商品と価格のバランス。ある人にとっては1万円でもお得だと言うし、同じ商品でも別の人には5千円でも高いと言うし。ゴッホのひまわりを買うとしても、3億円でも欲しいという人がいる。この価格になると投機の意味も強くなっているだろうけれど、それでも絵画に興味がある人だから生まれる価値観だよね。自分にとって良いものだからこそ、それだけの価値があると判断ができる。だけど、絵画どころかアートには全く興味のない人にとっては、それだけの価値を感じない。ゴッホのひまわりだったら、市場価値が高いことがわかっている。そういう意味で、興味がなくても10万円くらいなら払うかもしれない。けど、市場価値がわからなければ、無料ならもらうよっていうくらいになってしまうかもしれない。ちなみに、これは価格決定の2つ目の話だね。価値の基準が自分の外にある。

どこに価値を感じるか。そのポイントは人によって様々なんだよね。ホントの意味でのコストパフォーマンスは、このバランスのことを言っているはず。メディアの一部では、ただ安いということをコストパフォーマンスが良いと表現することがあるけれど、語彙としては違うんだよね。で、価値基準が違う以上は、コストパフォーマンスの良し悪しを一律に提案するのは難しいはずだ。ま、傾向はあるけれどね。

価値基準が自分の中にある人。経済の大本で考えられる消費者象はここにあるはず。個人個人の価値基準に従って欲しいという気持ちに差が生まれる。で、貨幣の持つモノサシの役割で価格を決定する。ネットオークションで即決購入するのは、そういうことなんだと思うよ。うちみたいなお店も、地域の中ではちょっと尖った価格設定だろうし、提供する価値も違う。それも、あくまでも小さな商圏の中での話ね。日本全国や世界という範囲で見たら、どうってことない。市場経済に合わせるなら商圏もまた必要な視点ということか。

いずれにしても、価値基準っていうのは自分にあって良いと思うんだよね。むとうの料理に1円の価値も感じないという人がいても、むしろそのほうが正常な気がする。ポッドキャストだってそうだよ。どんな商品でも同じなんだ。ほら、有名な大企業経営者でも食に全く興味が無いという人だっている。総資産だって億超えだけど、ランチは2000円までと決めているらしい。逆に年収とは関係なく、価値のあるものならお金を掛けるということもあるでしょう。

価値基準が自分の中になくて、いろんな情報だけで構築されているというのは、ちょっとどうかな。駄目じゃないんだろうけれど、なんとなく寂しい気がするよ。

今、たべものラジオでは「日本料理の変遷」シリーズを公開している。もしかしたら、これを聞いて日本料理の価値の再認識に繋がるのかな。そうだといいな。情報によって価値を決められてしまうのではなくて、見直してみたら思っていたよりも価値を感じたっていうことになる。そういう人が少しでも増えたら良いなと思っている。結局ね。価値基準を自分の中に作るのって、教養なんだろうな。もしかしたら、人文知というのは、自分の確固たる価値基準を手に入れるための手段なのかもしれない。

今日も読んでくれてありがとうございます。掛茶料理むとうの経営判断として、価格改定をしなくちゃいけない局面なんだ。色々考えていたらモヤモヤしてきたので、脳内を整理するつもりで書き始めたんだけどね。なんだか、想定外のところに文章が着地してしまった。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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