今日のエッセイ-たろう

十二単と平安時代の生活と実在。 2023年2月14日

十二単ってどうやって着るか知ってる?着物を十二枚重ね着するんじゃないの?という安直な想像は、実際に見てみると見当違いだということがよく分かる。そんなに簡単じゃないのだ。だいたい、布を十二枚も重ねるのって大変なのよ。着物じゃなくても良いから、手近な布をテーブルの上で重ねてみればわかる。美しく見えるように重ねた状態で、なおかつそれを維持するというのは難しい。一枚一枚布を重ねるのだけれど、襟の部分などは、下の生地とのバランスを見ながら均等な幅で重ねていく。そうすることで、美しい色のグラデーションが登場するという。

2月8日。当店で十二単の着付けを見学するというイベントが開催された。衣装を用意して、モデルさんにメイクを施して、たくさん人の前で解説しながら十二単を着付けていく。そんなことが僕らに出来るわけがない。今回のコレボレーションは、ハクビ京都きもの学院さま。

このコラボイベントの企画自体、ぼくらの発案ではなく先方からのオファーで始まったものだ。ぼくらは、会場を提供し、着付け見学の後の食事を提供すること。そして、食事のはじめに少しばかり「平安時代の食と暮らし」についてお話したことくらいだろうか。

絵や写真で見るのと、実物の着替えシーンを見るのとでは、やっぱり違うんだなあ。着物を重ねていくたびに、紐でキュッと締めていく。モデルさん、苦しくないのかなあ。なんてことを思って見ていると、着付けをされる先生は常にモデルさんの表情を観察している様子だった。きっと、表情や体のわずかな反応を読み取って、加減しているのだろう。

何枚も重ねられた着物を着て動くのは大変そうだった。想像通りだけれど、スタスタと歩くわけにも行くまい。古典表現に「しずしずと」と表されるが、まさにぴったりの表現だと感じた。今回のモデルさんは、長い髪といっても背中までである。けれど、絵を見る限りは平安時代の宮中の女性ははるかに髪が長い。あまり動き回ることがなかったのだろう、ということは衣装を見れば想像がつく。いや、知識としては知っていたのだけれど、目で見ると実感がわく。

平安時代は、その400年ほどの間、現代よりも気温が高かったか同等程度だったろうと言われている。その後鎌倉時代から江戸時代にかけて長らく寒冷期となるのだから、比較的過ごしやすい気候だったはずだ。現在と大きく違うのは、その暖かさもさることながら湿度である。奈良時代から平安時代にかけての気候は、高温感想がその特徴だ。現代のようにじっとりと汗がにじみ出るような暑さではなかっただろう。さしずめ、カリフォルニアの夏を想像すればよいだろうか。気温は高いがカラッとしている。そのおかげで、各地で干ばつが起こり、農業振興や祈祷などが行われたのだ。

さて、十二単という衣を考える時、私達が実際にその衣服で日常生活を送ることが出来るだろうか。それは見るからに無理がある。平安時代の貴族と比べて、現代人はずいぶんと活発に行動しているものだ。あんな衣装でテキパキと動き回って仕事をするなど出来ることではない。せいぜい、ブログを書くとかそういったことくらいだろう。そう言えば、日本最初期のブロガーで有名な清少納言もあの衣装を着ていたはずだ。

気候も大きく影響しているだろう。

暑い夏の日、実際にはもう少し着物の枚数は少なかったようだけれども、Tシャツにハーフパンツというほどには薄着ではなかった。現代の気候では暑くて平常心を保っていられないかもしれない。けれども、湿度の低い地域で、風通しの良い日陰ならば無理なく過ごせるのだ。寝殿造りという建築構造は、室内に風の流れを作り出すための工夫が満載である。活発に動き回るのでなければ、ゆったりと過ごすことが出来たのかもしれない。

十二単という衣装を見るだけでも、ほんの少しの知識があれば、あとは想像することが出来る。こうした生活環境を知ることは、当時の文化を理解する上で大切だ。こうした背景を理解することで、別の事柄の理解が深まる。政治であっても経済であっても、そして食文化であっても。

こうした理解が自分の中である程度熟成してくると、歴史的事象をマーケティングに活用できるようになるのではないかと思っている。マーケティングという言葉が適切かどうかは疑問だが。それでも、人間の挙動と社会の動きを観察することは、現代とこれからの未来を予測する上では有益な情報になる、という意味ではマーケティングに似ている気がするのだ。全く同じことは起きないけれど、似たような事例はいくつも見られる。その差分は、おそらく背景にあるいくつもの要因であろう。という予測が成り立つ。ということは、現代との差分を見れば、少なくとも未来を見通すためのヒントくらいにはなるだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。哲学という学問は詳しくないのだけれど、もしかしたら永劫回帰という思想に似ているような気もする。まったく、ニーチェという人の語り口は難しいのだ。ぼくみたいな素人がちょろっと読んだくらいでは理解出来る代物ではない。

超人的な石によってある瞬間と全く同じ瞬間を次々に永劫的に繰り返す。マルチエンディングでもなく、どれか一つが実在でもない世界観。歴史は、何度も見返すうちにその都度見え方が変わるのと、どこかでつながっていそうな気がするんだけどなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ、カルフォルニア州の大学留学。帰国後東京に移動し新宿でビックカメラや携帯販売のセールスを務める。お立ち台のトーク技術や接客技術の高さを認められ、秋葉原のヨドバシカメラのチーフにヘッドハンティングされる。結婚後、宮城県に移住し訪問販売業に従事したあと東京へ戻り、旧e-mobile(イーモバイル)(現在のソフトバンク Yモバイル)に移動。コールセンターの立ち上げの任を受け1年半足らずで5人の部署から200人を抱える部署まで成長。2014年、自分のやりたいことを実現させるため、実家、掛茶料理むとうへUターン。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務める。2021年、代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなどで活動している。

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