今日のエッセイ-たろう

「◯◯らしさ」を支えるなにか。 2023年10月12日

食の歴史を調べていると、領土とか国境といったものと、文化は一致しないのだなと思う。どんなに為政者が土地に線を引いても、文化や慣習、もっと言えば考え方のようなものだって混ざり合う。完全な分離なんか出来ないのだろう。

世界的な交流だって、陸路で繋がりあったのは紀元前後。漢の武帝が張騫を西に派遣したことで、互いの存在を知ることになった。それから、後漢の明帝が西域に派遣した班超という人が頑張って、その地域の国々が漢に従うようになって道が開かれたという。

道が繋がっている以上は、数は少なくても人の往来はある。一人が遠くまでいかなくても、隣までなにかを伝えれば、あとは伝言ゲームだ。それぞれの土地の文脈で再解釈されたり、誤解されたりして定着する。それが、また隣町へと伝わっていく。

文化は、だいたいはグラデーションになっているんだろうな。

それでも、たまに一人で遠くまで行こうとする人がいる。中国の仏僧で有名なところでは法顕とか玄奘とか。とにかく、微妙な翻訳が納得できなくて大本の仏典を手に入れようとして遠くまで行く。そうすると、それまでの伝言ゲームで伝えられていた内容が修正されていく。

とはいっても、既に長い時間かけて「誤読された文化」が定着しているわけだ。そうそう簡単に誤読以前のものを持ち込まれて、それが正解だと言われても需要には時間がかかるだろう。仏教のようなものだったら、それはホンモノということで受容されやすいだろう。けれども、食文化だとそうはいかない。

既に本編で紹介したけれど、硬い豆腐は日本人には受け入れがたいものがあるらしい。中国の豆腐は、どうも変だ。ということらしいのだけれど、そもそも豆腐を発明したのは中国なのだから、変なのは日本の豆腐なんだけどね。似たようなところで言うと、そろそろラーメンも同じことになりそうだ。だいぶ前のことだけれど、父は知人に請われて中国へラーメンを教えに行ったことがある。そもそもラーメン屋じゃないのだけれど、曰く「本場の日本人から伝授された」という事実がビジネス上有効なことらしい。ラーメンの本場が日本だという認識をしている。正確には「日式ラーメン」だろうけれどね。不思議なことになっている。

日本という国は、海に囲まれている。そのおかげで、良くも悪くも文化の伝達はワンテンポ遅れる。その日本でもこれだけ多くの文化が入り混じってきたのだ。地続きの国々が影響を与え合わないほうがおかしい。そもそも、土地の所有を言い張って「国」というのを作り出したのは権力者なのだ。古い時代の生活者にとって、土地の所有権とか境界などという感覚とは無縁なのである。混じり合って、相互に影響しあっていて、多様性があるのが自然な姿なのだろう。

以前、似たようなことを時間について書いたことがある。江戸時代と明治時代はきっぱりと別れているような錯覚を覚えるけれど、実際にはグラデーションである。同じことが物理的な広がりについても言えるのだろうな。

こうして考えていくと、「◯◯らしい」という独自の文化はどこからやってくるのかと思う。数千年もの間に影響しあっているのだから、どこかで均一化しても良さそうなものだけれど、そうはならない。独自文化を支えているものが、必ずなにかあるはずだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。もちろん、因子がひとつってことはないだろうけどね。日本料理ってなぜ日本らしいのかな。ということを考えるようになってから、たべものラジオの大きなテーマのひとつになったんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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