一般的にシャケっていうと、どんなビジュアルを思い浮かべるだろうか。スーパーで売っている切り身?それとも塩焼き?フレークが好きっていう人もいるし、握り寿司かもしれない。もちろん新巻き鮭に決まっているじゃないか、という人は少ないだろうか。
現代人にとって、一番身近な存在はもしかしたらコンビニおにぎりなのかもしれない
おにぎりの具として使われているシャケって、いろんな色があるってことに気がついている人はどのくらいいるのだろう。ガブリとかじりついてしまえば、意識はもう口の中。シャケの色は紅色に決まっているから、わざわざ見ようと思わないか。
日本で流通しているシャケって、けっこう種類がある。シロザケ、紅鮭、銀鮭、トラウト、アトランティックサーモンとか、このあたりが一般的だろうか。
焼鮭で食べられているのは、紅鮭とか銀鮭が多いのかしら。北海道で有名なのはシロザケで、単に「鮭」と言ったら、これを指す。シロザケの標準和名は「サケ」だしね。他の種類が輸入されるようになってから、区別のためにシロザケと呼ばれるようになったとか。
同じ種類でも、漁獲された場所によっても色が違う。海で捕れたシャケのほうが赤みが強いのだ。元々、サケは白身魚に分類されている。だから、本来の身の色は白っぽい。海にいるときに、エビやカニを食べていて、それらに含まれる「アスタキサンチン」という色素が取り込まれることで赤みを帯びてくるのだそうだ。
アスタキサンチンは、医療分野でも注目されている色素で、その一番の特徴は抗酸化作用。活性酸素から酸素を除去したり、脂質の過酸化を抑制する力があるのだ。特に活性酸素の毒素を除去するパワーはトマトに含まれるリコピンの1.6倍。他にもシワのたるみ予防だったり、シミやソバカスを防いだり、眼精疲労の改善だったり、脳や目の老化防止だったり、いろんな嬉しい効果が期待されている。
鮭だってアスタキサンチンが欲しいのだ。川を遡上するときには、ものすごくパワーを使う。いくら泳ぎの達者な魚だといっても、障害物だらけの川を逆流するのだから相当の激しい運動となる。だから、抗酸化作用のあるアスタキサンチンを体内に溜め込もうとするのだと考えられている。
イクラが赤い色をしているのも同じ理由。川に射し込む強い日差しから卵を守るために、体内に溜め込んだアスタキサンチンを分け与えるのだ。なんという母の愛。なんという自然の摂理。
川を遡上する前の鮭のほうが食材として価値が高く、白っぽくなった産卵後の鮭は価値が低い。というのは、市場ではよく知られた話。だから、コンビニおにぎりや瓶詰めのフレークなどは白っぽい色をしていることがあるのだ。そのほうが安価だから。
じゃあ、赤みを帯びた鮭を使っているおにぎりのほうが高級なのかと言うと、そういうわけでもない。紅鮭を使用していることが多いのだけれど、アメリカ産のものがほとんど。つまり価格としてはちょっと高いかなというくらい。おにぎりの価格にしたら30円くらいだろうか。
どちらも企業努力の結果だ。庶民の味方であるコンビニおにぎりが高くなりすぎないように、なんとか頑張って低価格の素材で美味しくしようとしているのである。国産の赤みを帯びた鮭を具材にすると、あっという間に300円くらいになってしまうのだ。
鮭の価格が上がっている原因は、昨今のインフレだけではない。そもそも、国内の鮭の漁獲量が減っているのだ。この20年で、5分の1まで減少している。日本の海から鮭が姿を消しつつあるというのが現実だ。
そもそも、鮭にとっての最適な水温は8℃〜12℃と言われている。けっこう冷たいほうが好みなのだ。2000年代初頭までは北海道から東北あたりまで生息可能水温の海域が広がっていたのだが、温暖化の影響で海水温が上昇してしまった。これに合わせて鮭も北上したというわけだ。
もう、宮城名物のはらこ飯が高級料理になるのも時間の問題である。旅館の朝食で、薄っぺらい鮭の塩焼きすら見ることができなくなるだろう。
地球温暖化と言われてもイマイチピンとこない。という時代は通り過ぎて、人間が体で感じられるほどになってきた。だけど、まだ本気で危機感を抱いている人は少数派だそうだ。もっと身近で自分の生活に直結したことに影響が出てきているとわかったら、少しはそのヤバさが伝わるだろうか。
今日も読んでいただきありがとうございます。以前、マツコの知らない世界という番組で紹介されたことで、サーモンという語に関する誤解が広まってしまった。番組のゲストはサーモンを偏愛する人だそうだが「養殖ものをサーモンと呼ぶことにしている。」と自己流の解釈を紹介していた。だが、これは明確に間違いだ。鮭とマスとサーモンは明確に別の生き物なんだよね。こういうの気になっちゃうんだよなあ。