今日のエッセイ-たろう

コミュニティとかコミュニケーションとか。 2024年7月15日

どうやらぼくは、コミュニティとかコミュニケーションというものに強く興味を惹かれるらしい。自覚はなかったのだけれど、これまでの仕事を振り返ってみると、ひとつの共通項のように浮かび上がるキーワードのようだ。まるで他人事のような表現になってしまった。

飲食店というものの存在意義について考え始めたのは、東京から掛川へと移動を開始した頃。多様な食産業のなかで、飲食店とはどのような存在意義があるのか。社会にとって必要なものなのか。特に、高級志向の会席料理は豊かな時代にのみ存在するもので、人間社会にとって本質的に必要なものではないのではないだろうか。などと、あっさりと肯定してしまいそうな自分を否定しながらの思考だった。

いまだに答えなど見つからない。そもそも、たべものラジオだって、「外食産業とはなにか」から始まっている。「生きていくため」だけを考えるならば、飲食店はいらないかもしれない。特に、ぼくらのような「楽しみ」を司るビジネスって一体なんなのだろう。この疑問から始まっているのだ。たべものラジオの初期でざっくりと「お茶」について取り扱ったのも、やはり「楽しみ」のための食産業のひとつだからという気持ちがある。

「食べる楽しみ」は、直感的に良いものだと思っている。なんだかワクワクしたり、ホッとしたり、なんとも言えない嬉しい気持ちや幸せな気持ちになる。精神衛生という言葉で表現するのは違和感があるのだけれど、心の豊かさというのは幸福度に繋がっている気がする。

じゃあ、「食べる楽しみ」ってなんだろう。味覚的に料理が美味しい。というのは栄養的なものとは別に楽しさにつながるだろう。それから、農作物を作ってくれたとか魚をとってくれたとか、そういう人たちの思いを感じられるのも幸せな気持ちになる。料理人の創意工夫や気配り、配膳してくれる人たちとの交流も嬉しい。なにより、誰かと一緒に分かち合えるというのが、やっぱり嬉しいことだと思うんだ。

美味しいなあ。という感情をぼくが感じて、目の前の人がやっぱり美味しいなあと言う。そして、うっかりするとその料理や食材のことについて会話が広がることもある。「食べる」に向き合うのに、他人は必要ないはずなのだけれど、誰かと共有できたり話ができたりするのは楽しいと思うのだ。デートで映画を見た後、喫茶店で映画について感想を言い合うのに似ている。むしろ、ぼくなんかはそれが楽しくて映画館デートをしていたのかもしれない。遠い昔の昭和生まれ人の記憶。

食のことを話さなくたって、お互いに幸せで楽しいという状態で会話するのは機嫌の良いものだ。趣味の話をしてもいいし、ドラマの話をしても良い。昔話に花を咲かせるのも良い。興味のあることに夢中になって議論が始まっても、それはそれで楽しい。

会食というのは、コミュニケーションのひとつの姿なのだろうと思う。コミュニティ形成という意味でいえば、コミュニティを広げるのではなくて深める感覚。じっくりと付き合うには、一緒に食事をするのが手っ取り早いという話を聞くけれど、そのとおりかもしれない。今度ご飯でもいきましょうとか、飲みに行きましょうというのは、コミュニケーションを深めましょうと言っているのと同義に聞こえてくる。旅行にいきましょうとか水族館にいきましょうというのと比べて、気軽に付き合えて良い。

飲食店は、交流を深めることに貢献している。というのが、ぼくなりの解のひとつ。たぶん、料理も皿もしつらえも、そのために存在していると言っても良いかもしれない。では、広がりはどうだろう。スナックやコーヒーハウスのような場所なら、そこで新たな知り合いが出来るかもしれないけれど、当店は個室だからそうはいかない。深めるだけでなく、コミュニティが広がるのも嬉しいことだろう。

だから、イベントを企画したりイベントに参加したり、たべものラジオコミュニティを作ってみたりと、いろいろやっているのだろうと思う。それが嬉しいのだ。

今日も読んでいただきありがとうございます。この指とまれ。というのがたべものラジオの存在意義。という話はどこかでしただろうか。ぼくらはただの旗のようなもので、それがなくても人が集ってワイワイできるような環境が嬉しいんだよね。実名で素顔をさらしてやっているのも、そのためには良い気がしているんだ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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