今日のエッセイ-たろう

フードテックとウェアラブルデバイス 2023年3月20日

小学生の頃、ぼくらの世代がドはまりした漫画がある。その名もドラゴンボール。たべものラジオの中でもガンダムと並んで隠喩に使いたいところだけれど、ぼちぼち伝わらない世代も多くて二の足を踏んでいる。どちらかというと、ワンピースの方が認知度が高くなってきているようだ。

ドラゴンボールという漫画の中では、とんでもなくハイテクなメカがたくさん登場する。ホイポイカプセルはあらゆるものを小さなカプセルに収納することが出来るという優れもの。ドラゴンボールを知らない人には全くもって意味がわからないかもしれないが、いろんなモノを指先程度のカプセルに収納してしまうのだ。飛行機や車、バイク、家など、現実には絶対に「持ち運ぶ」という言葉では表せないようなモノを、カプセルにしてしまう。登場人物のポーチの中には、家や車が詰め込まれているというのだ。なんとも便利である。

これを発明したのがブリーフ博士。第一話から登場する女性ブルマの父親で、世界有数の大企業カプセルコーポレーションの社長である。そして、実現することが出来るかどうかはさておき、こんな突飛なことを考え出したのが作者である鳥山明である。まだ、ブロードバンドもなく、パソコンすら一般的ではなかった時代に想像したのだから、それだけでもとんでもないことである。

カプセルコーポレーションの発明品ではないけれど、少年たちに大人気だったハイテクメカがある。敵キャラのフリーザとその一味が装着していたスカウターだ。モノクルのように片目にレンズをつけるウェアラブルデバイス。対象の人物を見るだけで、その生体情報を数値化することが出来るというのである。クリリンの戦闘力は260、といった具合である。戦闘能力を数値化するという発想だけでも画期的なのに、それをウェアラブルデバイスで測定する。しかも、通信機能や位置情報まで割り出すのだからとんでもないハイテク機器だ。

漫画の世界の話ではあるけれど、現代ならこの発想をつかったウェアラブルデバイスは作ることが出来るらしい。もちろん、あれほど高機能でコンパクトではないし、そもそも戦闘力という謎の数値を計るものではないけれど、アイデアが活用されている。

豚の体重を測る仕組み。「スカ豚~」というメカがそれだ。ヘルメットの上に取り付けられたカメラで豚を認証して、その体重を測って、ヘルメットに装着されたメガネで見るらしい。

豚肉というのは、牛肉と違って重量が価格の決め手になる。だから、体重計に乗せて計測するのだ。ただ、適正体重が115kg程度ということで、豚を体重計に乗せるだけでも重労働なのだという。重いし暴れる。カメラもモニターもウェアラブルデバイスにする必要はなさそうに思えるのだけれど、動き回る豚をカメラで追いかけるには人間の認知能力を活かしたほうがやりやすいらしい。カメラを向けるだけでも大変という話だ。それに、両手があいているので計測値をそのままカルテに書き込むのにも便利だという。

こうした仕組みを支えているのがAI技術である。映像から体重の予測値を導くには大量のデータが必要となる。開発者はリリース前に数千頭のデータを収集したそうだ。そして、今も情報を集め続けていて、その制度は上がり続けている。

ドラゴンボールのスカウターは、地球人であるカプセルコーポレーションには開発不可能だったのだ。それは、こうした膨大なデータが不足しているからである。戦闘のための集団であり、いくつもの星を征服しまくっているフリーザ軍団だからこそ成し得たイノベーションということになる。恐ろしいといえば恐ろしい。

スーパーマーケットなどで販売されている魚の切り身の中には、びっくりするくらいに量が均一化されているものがある。一般的に、バラ肉であっても魚の切り身であっても「100gあたり○○円」となっていて、1パックあたりの価格はバラバラである。それは、パックに詰めるときや魚を切り身にする時にばらつきが発生するからだ。しかし、冷凍食品などではそのバラツキがない商品がある。

料理人は焼き魚のために魚を切り身にすることがある。それは毎日のように繰り返される仕事で、感覚的に同じくらいの重さに切り分けている。さほど大きな差にはなっていないと思うのだけれど、一定だということはない。メチャクチャ難しいのだ。経験によって為せる技。けれど、冷凍食品の加工場では、高性能カメラで魚の断面積を瞬時に計算して設定した重量に揃えて切り分けることが出来るそうだ。そういうハイテクマシンが導入されているという。巨大で高価だから、料理屋が導入するようなものではないのだが、スゴイ技術である。

切り身専用のスライサーは、いまはまだ加工場にしか使われていないかもしれない。でも、もしかしたらウェアラブルデバイスとして登場する日がやったくるかもしれないと思うと、なんだかワクワクしてしまう。切るという作業は手動のまま、計測だけがウェアラブルデバイスで出来るようになる。面白そうだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。実現したら面白そうだけどね。使う人がどのくらいいるのかな。そもそも、一般家庭では均等に切り分けることに対して、そこまで意識する必要がないじゃない。10gくらい違っていても、仮にもっと違っていても、家族間で喧嘩になるほどのことじゃなさそうだしね。用途は限られるんだろうな。切り身に限定しなくても、見たものの重量を測定できるというのは色々と活用できそうだよね。あ、人間だけは勝手にやると倫理的な問題になりそうだけど。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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