今日のエッセイ-たろう

ブルシット・ジョブと補助金事業 2024年9月25日

補助金を利用した事業というのは、正直好きじゃないんだ。なんだか、とてもストレスフルだし、毒されるような感覚があるから。

細かく収支計画を立てるのは、経営者として当たり前のことだから構わない。ただ、事業でかかる経費の中に「対象」と「対象外」が入り混じってしまい、煩雑になるのだ。煩雑だというのは、ただ面倒だというのではなくて、事業そのものの適正な事業可能性が見えづらくなる。だから、わざわざ提出用と実際に使う収支計画を分けることも多い。これは、確実にコストだ。

収支計画だって、しっかり注意していないと「補助金をもらうため」の計画が顔をのぞかせてくることがある。つまり、その事業は「補助金がないと成立しない」内容になってしまうのだ。企業であればよほどのことがない限りそんなことにはならないと思うのだけれど、町おこしイベントはけっこう危険。幸いにして身の回りには補助金に毒された事例がなくて、直接出会うことはないのだが、いろんな場所で「補助金がないから継続できない」という話を聞くのだ。補助金はあくまでも補助。自転車の補助輪と同じなのだから、支給されなくても自走できるようになることが望ましいはずなのだ。

町のために良いことをやるのならば、堂々と対価を稼ぐのが良い。ところが、どういうわけか評価が伴わない。「せっかく良いことをやっているのに、結局金儲けかよ」と言われてしまうのだ。そう言われ続けて、とうとうその町にいるのが嫌になって出ていった人もいる。まさか、金儲けをするなら良くないことで行えというわけでもあるまいに。どんなに良いことであっても、それを継続するためにはお金がかかるのだ。その人だって、しっかり労力を使っているのだから見合った給料を受け取るのは当然。だとぼくは思うのだけど、どうだろうか。

ストレスは別のところにも有る。補助金の仕組みだ。これまたびっくりするほどに煩雑で細かいのである。細かなところで言ってしまえば、「計算書」がなぜ「Word」なのだろう。Excelじゃないのか。という些末なこともストレスだが、最もストレスが高いのは考え方そのものだ。

そもそも、補助金というのは国なり県なりが、行政の方針として伸ばしたい産業に対して行うものだ。その産業を伸ばすことで経済の循環を良くし、全体の経済力を高めようというもの。だから、行政も補助金を利用する事業者もパートナーであるはずなのだ。

ところが、補助金で稼ごうという人もいる。産業が伸びるとか、町が良くなるとかではなく、事業者が儲かりさえすれば良いという考えなのだ。残念ながら一定数存在するのは事実である。これに対して一定の抑止力が必要なのは理解できる。ただ、抑止ししたいという気持ちが強くなりすぎて、補助金申請がむやみにややこしくなってしまっているのだ。

これによって、真摯に取り組もうと思っている人は補助金の申請を諦める。そんな時間的コストを払うのはゴメンだというのだ。はっきり言って、これにはぼくも辟易している。

本来ならば、新規事業における補助金は投資である。事業というのは初期段階においてリスクが高く、黒字化するのに時間がかかる事が多い。だから、その期間は赤字でも離陸するまで補助するわけだ。その意味で、たしかに投資対象を審査することは当然だが、現状の仕組みではその観点は薄い。補助金を行使するという仕組みをきっちり回すことが業務になっているので、本質的な監査ではなくなっている。むしろ、不正が行われないために監視することが業務であるかのようだ。

不正を働く人は、どんなに書類を煩雑にしてチェックを厳しくしても、「しっかり」した計画書を提出する。投資という観点が有れば、書類がしっかりしているかどうかではなく内容を重視するのだが、残念ながら審査を通過する。真面目に事業を展開しようとしている人は、面倒だから補助金は使いたくないという。数年前に補助金のアドバイザーとして行政に雇用されている人が愚痴をこぼしていたのが、こうした話である。

現場の担当者が良いとか悪いとか、そういう話ではない。システムがちょっと本質的ではなく、それを修正しようとする自浄作用が働かなくなってしまっているのだ。例えば、国が定めたガイドラインがあるならば、県や市町村は逆らえないというようなこともあるだろう。実際、直接知っている人の中には、ちゃんと内容を見て、ちゃんと投資の概念をもって育てたいと考えている人もいる。そうした思いのある人のお陰で、なんとかなっているのだろう。

今日も読んでいただきありがとうございます。一部の悪い人のために、多くの善人が割りを食う。という仕組みが良いとは思えないんだよね。補助金に限らず、世の中にはそういう仕組がたくさんありそうな気がしていて、どうかと思うんだ。で、そこには、 デヴィッド・グレーバーの言う「ブルシット・ジョブ」が発生しちゃうんだろうなあ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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