今日のエッセイ-たろう

外食産業とはなにか。エンタメ視点で考える② 2023年11月27日

他のエンタメと違うのは、量産が容易ではないことか。見るというのであれば、大きなスタジアムに沢山の人が集まったり、テレビなどで配信する。一つの試合をエンタメとするならば、それを作り出すのに関わる人の数は数十人だが、たった一つを作れば数万人に届けられる。料理の場合は、1万人に届けるためには1万人分作る必要がある。ここもまたコストがかかることだ。このコストを支払う価値を作り出さなければいけないし、価値を感じてくれる人が一定数以上必要だ。

エンタメ業界の人達は、常に人を楽しませなければならない。そういうプレッシャーがあるのだろうな。じゃないと、商業的に成立しない。自分の世界観を表現するだけでは生きていけないということもある。どこかでお客さんのことを意識しなくちゃいけない。自由に作ったら全て受け入れられた、というのは稀なのではないだろうか。

一方で、こうした制約があるからこそ技術が進歩するということもある。人間は貪欲なのだ。より良いものを、より美味しいものを、より楽しい時間をと求め続ける。そのための知恵や技術は、制約があるからこそ生み出されるだろう。となると、外食産業は技術の進歩と保持を司る存在なのか。そう思い始めると、伝統の職人技というのはビジネスの中で保持され発展してきたように思えてくる。

エンタメ的な外食ビジネスの出現を世界規模で比較してみたら面白そうだ。ちゃんと調べていなけれど、日本はちょっと変わっているようなイメージが有る。それは、源流が複数あることと、出現が早いこと。

ヨーロッパなどでよく見られるのは、貴族や王朝の料理人が放出されることでレストランが開業されるケース。エスコフィエにルーツを持つ現行のフランス料理はこのパターン。イタリアなどは、諸国を巡ったり書籍から学んだりして発生するというのも見られるが、それでもやはり王侯貴族につかえていた料理人が外食産業を切り開いていく。

これに対して、日本は勝手に学んで模倣するらしい。貴族や武士の料理番が、身分を捨てて料亭を作ったというのはあまり聞かない。貴族や寺院の食文化を武士が真似して魔改造、その後庶民が真似して魔改造。見様見真似でキャッチアップするから、狙っていなくても魔改造されてしまう。

それだけじゃなく、スシとか蕎麦とか天ぷらみたいなファストフードも人気が出て市場が拡大すると、あっという間に高級店が登場する。握り寿司を生み出した与兵衛鮨は、一代で屋台から高級店になっている。ハンバーガー専門の高級店は、いまだスシのレベルに到達していない。

うまいものを食べたいし、うまいものを知っているというのがステータスになる。それは、美しいものを楽しみ、それを知っているというのと似ているのかも知れない。江戸の庶民の文化を眺めていると、同じような感覚で自慢しあっているようだ。つまり、みんなグルメになっちゃったんだろうな。だから、その道を突き詰めるヲタクが登場して、ヲタクの作った料理が高級化していく。ヲタクという表現が良くなければ、究極の凝り性だ。

メジャーになった分野だから、そこから高級店が誕生する。というように見える。雑司が谷や深川の藪そばなんかも該当するだろう。マイナーなジャンルで高級店にしてしまって、そのまま消えていった飲食店というのはあるのだろうか。ただの凝り性で、コストがかかるから高額になってしまったパターン。需要がないと売れないからなあ。そういう意味では、需要が少なくなったジャンルでは一部の尖った高級店を除いて、ミドルクラスから消滅していく。庶民的なものと、ハイエンドなもの。どうも、このあたりで右往左往しているような気がしてきた。

今日も読んでくれてありがとうございます。会席料理ってわかりにくいもんなあ。知ってしまえばどうってことないんだけど、変な認知が広がっちゃってる。需要が少なくなると、右往左往して文脈のない形だけの料理になっちゃうリスクが有る。まさに、和食展で語られているメッセージのひとつだよね。形骸化させないために、フランスと日本がタッグを組んで無形文化遺産にしたんだもの。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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