今日のエッセイ-たろう

料理人が売っている商品の本質とは? 2023年2月9日

「料理人が売っている商品」の本質とは一体なんだろう。料理、つまり食事を提供することが主要業務であることは間違いない。間違いないのだけれど、料理を生業としている人とそうでない人の差はなにか。決められた作業のようにレシピを再現し続ける調理師と、そうではない料理人の差分は一体何なのか。これを見定める必要があると思っている。

飲食業界は、いま大きく変わろうとしている。いや、変わらなければならない環境にさらされている。短期的に見れば、それは新型コロナウィルスによるパンデミックの影響が大きい。もう少し長期的に見れば、人類の食を取り巻く環境が半世紀前のそれとは異なっていることも影響している。

自然環境の変化、エネルギーの配分、価値観、文化の合流、独自性、豊かさの捉え方、テクノロジーの進歩、世界的インフレ、などなど。具体的に数え上げたらキリがない。様々な要因が重なっていて、外食産業も少なくない影響を受けている。

あまり言葉にしてしまいたくはないのだけれど、ぼくらだって、いつどうなるかわからない。という気持ちは常に持っている。そういう危機感を持ちながら飲食店の経営に当たらなければならない。もちろん、それはいつの時代もそうかもしれないけれど、昨今はその変化がとても大きくなっているように見える。これは、たべものラジオを通して、食文化の歴史を学んだせいだろう。

そんな状況だからこそ、自分たちの持っている商品とはなにかを改めて見つめ直す必要があるだろう。言い換えれば強みである。SWOT分析のS。表面的な部分から、その本質に至るまでを改めて整理する感覚だ。

本質的なものは、「料理に関する知見と技術」じゃないかと思っている。何かしらの食材を与えてもらえれば、そこから料理を生み出すことが出来る。火や水、包丁や鍋、調味料、食材の組み合わせ。これらを使いこなす知恵と技術そのものである。

実際にチャレンジする機会は少ないのだが、異文化の社会で、その社会にあるものだけで料理を作ることが出来る、というのがその本質の正体なのではないだろうか。

上級になれば、更にそこから生み出される料理は、より美味しいものになる。異文化だったら、その文化に合わせた味付けを見つけ出して適合させることも出来るし、その範囲内で自分なりの美意識を表現することも出来るだろう。

会席料理のようにコース仕立ての場合は、更に心理学的なアプローチもある。

お客様の心理状態を読み取って、それに合わせて料理の種類や味付けを微細にコントロールしていく。これは、コールドリーディングを活用した対人セールスにも通じる部分がある。これが出来るということは、逆にお客様に暗示をかけてコントロールすることも可能になるだろう。こういう表現をすると印象が悪いのだけれど、実際に良い板前割烹では行われていることだ。もちろん、悪い意味ではなくてお客様にもっと楽しんでもらうために行っている。

お酒が進むと、味の濃いものが欲しくなる。なのだけれど、どこかで小休止しなければ延々と濃くなっていってしまう。だから、途中でほんの一口ばかりの酢の物を提供する。または、香りのあるもので少し指向性をずらしてみる。そのために、こんがりと香ばしく炙った魚や味噌などが用いられることもある。山椒でもいいし、しそでもいい。

少々酒の量が多くなってくると、人によっては酒を止めるタイミングが見えなくなってしまうこともある。京都でぶぶ漬けが出されたら帰ってくれというメッセージという迷信もあるのだけれど、そろそろお酒はやめたほうが良いのではないですか、という料理は確実に存在する。

これは、暗号のように料理に込められたメッセージを読み取ってもらうというケースもあるにはある。けれども、一流の料理人はそんなことすら感じさせない。なぜなら、せっかくの酒の席が興ざめしてしまうからだ。それが酒飲みの心情。だから、うずみ豆腐のような味噌とご飯をベースにした料理がある。ある程度お腹も膨れていて、酒が進んでいる状態で、ほっこりとした味噌汁を飲まされると酒が止まるのだ。それも嫌な気分になることなく、「はぁ~、うまいなぁ」と深いため息にもにた声が漏れるのである。そうすると、これまた不思議なことにそれ以上の深酒をしようという気持ちが何処かへ霧散してしまうらしい。「ふぅ、勘定して」と続くのが定番だ。もちろん、そうさせるだけの味が必要で、それを作り出す腕と知見が必要なのは言うまでもないが。

話はだいぶ脱線してしまった。つまりは、料理人が提供する商品の本質は、料理そのものではないということだろう。料理というものを題材にして、その場の空気を演出する能力そのもののなのではないだろうか。技術や知見は、それを引き起こすために必要な道具ということなのかもしれない。とすると、世界観を広げることが演出力を高めることになるだろう。

まとめるなら、食事という空間の演出家、というような表現が出来るかもしれない。なんとも言語表現が貧弱なので、もっと上手な人に言語化してもらいたいところではある。

上記のようなことを明確にしておく。人によっては解釈が違うかもしれないが、ぼくの理解ではこれが強みだと思うのだ。で、この本質部分をドメインとする。固定してブラさない部分だ。そのうえで、ビジネスや事業に繋げることを考える。ピボットというのが正確な表現かわからないが、イメージはそれだ。本質部分を軸足にして、くるくると全方位に体の向きを変える。それぞれの方向に選択肢があって、その中から面白いと思えるものを選択していく。そんな感じだろうか。

今日も読んでくれてありがとうございます。たべものラジオのために勉強したことで見えてきた世界でもあるし、ある程度でも見えていたからこそたべものラジオを始めた、というのもある。ただね。マネタイズが下手なんだよなあ。軸足は据えた。ピボットをしてみて、活路が見えそうもない分野はやめた。で、あとはマネタイズ。まだまだやることはいっぱいあるなあ。だから面白いんだけど。

儲かるかどうかはわからないけれど、この世界観で一緒にチャレンジしたい人いるかな。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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