今日のエッセイ-たろう

旅の思い出。 2024年6月30日

本当に久しぶりに旅行に出かけた。仕事やポッドキャスト関連で出かけてはいたけれど、家族で旅行に行ったのは新型コロナウィルス流行以前のこと。家族旅行はだからなのか、のんびりと過ごせたからなのか、良き時間であった。

東名高速道路で清水まで向かい、そこから富士川に沿って北上。目指すは山梨県甲州市である。フルーツ狩りとユニバーサルスタジオが天秤にかけられたが、家族と一緒に自然に接する時間を選んだのだ。

いくつもの長いトンネルをくぐりながら、眼下に広がる富士川を眺めるのはなかなか気持ちが良い。江戸時代には、信濃や甲斐の年貢などが船で運ばれたのだということをぼんやりと思いうかべながら車を走らせていく。その先に広がる盆地は、海沿いの静岡県ではあまり見られない景色だ。地形を知ることは食文化史を紐解くうえで重要な要素の一つ。普段から気をつけているけれど、やはり肉眼で見て肌で感じることと想像するのとでは雲泥の差だ。

勝沼は、どこを通ってもブドウ畑を目にすることが出来る。ブドウだけではなく、さくらんぼや桃の木もちらほら見える。すごいね~などと言いながら、掛川を訪れた人が茶畑の広がる光景に目を奪われるの気持ちが少しわかったような気になる。

盆地特有の暑さと、蚊にまとわりつかれながら桃の収穫体験。子どもたちは、天を仰ぐようにして桃の品定めに真剣だ。正直なところ、ぼくにはどの実が美味しいかなど判別ができないので、教えてもらった情報を頼りに選ぶ。あとは運まかせ。収穫を終えて売店近くに戻ると、冷えた桃を好きなだけ食べて良いというので、ひたすら桃を食べた。いくつかの品種が入り混じっているようだが、これまた素人目にはどれがどれだかわからない。食べて触って、桃というものをじっくり体験するだけである。

なんとなく、赤く熟していて柔らかそうなものが美味しそうだ、と思っていた。熟すと柔らかくなる印象があるからだろう。けれども、そうとばかりは言えないようだ。赤くて大きくて柔らかくて、つるりと皮が剥ける桃でも甘いものもあれば酸っぱいものもある。一方で、りんごのような硬さの桃を噛むとシャキシャキとした食感とともに甘みと旨味が口中に広がることもある。なかなか新鮮な体験である。

お腹が膨れて満足した娘たちは、地面に転がる青いブドウを踏みつけて遊んでいる。間引きした実がこぼれ落ちたものだ。プチプチした感触が楽しい。作業中のおじさんから間引きしたブドウの房をもらってご満悦の娘たちは、いつの間にか飼い猫と遊ぶのに夢中。ブドウの実を投げては、猫がそれを追う。いろんなものを見つけては、いろんな遊びを作り出すものだ。

せっかく甲州市を訪れたので、発酵デパートメント2号店に立ち寄る。予め小倉ヒラクさんに連絡していたのだが、準備中だからなにもないとのこと。ただ、来るなら顔を見たいから寄っていってと声がけをしてもらって、訪問。本当に忙しいようで、わずかに10分程度館内を案内してもらって、ぼくらが車に乗り込むよりも前に出かけていってしまった。こんな忙しいのに時間を取ってくれたのだ。去り際に宿泊先を聞かれ、明日の朝宿に行くからお茶しようとのこと。

会いたいから会う。目的は会って話すこと。ぼくも妻もあまりそういう習慣がなくて、例えば一人暮らしのときにも実家に立ち寄るのも用事があるときだし、電話するのも似た感覚。だから、会って話したいから会いに行くと宣言したヒラクさんの行動は、ぼくら夫婦には新鮮に見えた。たぶん、ぼくらの方が少数派なんじゃないかな。なんてことを、帰りの車中で話したのだが、どうなのだろう。

どうということはない旅の一部。古い温泉宿に泊まり、友人に会い、地元の人たちと話して、地元のものを食べ、ただウロウロと見てまわる。アトラクションなんかなくても、もう全部が楽しい。こういう旅が昔から好きなのは、誰かの影響なのだろうか。

今日も読んでいただきありがとうございます。帰り道、富士山の麓で牧場に立ち寄った。観光化されているので、いわゆる牧場の営みを知ることは出来ないけれど、素人が体験するにはちょうどよい。家族も十分に楽しんだようなので、それも楽しみを膨らませてくれる要素だ。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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