今日のエッセイ-たろう

時間を捉える「感覚」を2つ。 2023年2月25日

今年の4月で「掛茶料理むとう」は創業50周年を迎える。ちょうど50年前の4月に、父が独立開業したのだ。その頃の店名は「季節料理むとう」。少しばかり屋号が変わっているし、規模も場所も変わっているけれど、半世紀も続いたことは素直にスゴイことだと思う。ぼくが生まれる前から両親が一生懸命に考えて体を動かして作り上げてきたものだ。

人の一生を考えると、半世紀というのはとても長いという感覚がある。一方で、伝統や歴史の重さという観点に立つと、わずか半世紀という気持ちにもなる。不思議なものだ。

明治以降に誕生した伝統というのは「わりと最近」という感覚がある。それは、たべものラジオを通して様々な食文化や食材の歴史を学ぶようになったせいだろう。あまりにも長いスケールでものごとを見ていると、「わずか」150年という妙な形容詞がつけられてしまう。

どちらが良いとか悪いという話ではないのだろう。どちらの感覚も持ちながら、眺めることが寛容なのだろうと思っている。眺めるのは時間。今を基準点として、過去と未来を均等に眺めること。

パソコンの生みの親と言われるアラン・ケイという人がいる。彼はダイナブック構想、すなわち小型で持ち歩ける程度のコンピューターやタブレットの実現を目指した。今では当たり前だけれど、彼がダイナブック構想を唱えだした当時は、まだコンピューターがとてつもなく大きくて、個人所有ではなかった。巨大なコンピューターを所持する大学や企業があって、それを複数人でシェアするのが一般的。現在私達が知っているデスクトップPCすらもなかった頃のことだ。少しずつ個人所有できるサイズが誕生していくという時代において、彼と彼のチームが構想したものは夢物語だっただろう。

ただの夢物語が、数十年の時を経て形になったのは、誰もが知るところだ。ノートパソコンやタブレットPCを目にしたことがない、という人は少数派になりつつある。興味深いのは、これらのデバイスを構想するときに、彼は歴史を学んでいたという話だ。

タブレットという言葉は、元々「石版」意味している。そう、古代の産物だ。それを使って文字を学んだり計算を行っていた時代がある。ここに着想を得て小型のコンピューターへと思想を羽ばたかせる。安価で、片手で持てる程度のサイズで、文字や映像や音声も扱うことが出来るモノ。それがもたらす効果は「人間の思考能力を高める」ことであるとした。たしか1960年代のことだっただろうか。

注目したいのは、石版もタブレットPCも、それらがもたらす効果である。ものを論理的に考える時、私たちは情報を一度アウトプットする。文字やイラストなどにして、書き出す。言葉にして話す。などということを行う。情報を出し入れしながら思考を進める。どうやら、人類はそのようにして考えを深めるのだろう。石版を巨大にしたものが黒板だとすれば、理論物理学者や数学者が黒板に向かって数式を書いて思考する姿は、まさにそのもののように見える。

アウトプットと同時に情報の取得ができるようになれば、それは更に加速するだろう。ということで構想したのかもしれない。その形状は、かつて人類が手に入れた画期的なアイテムである石版にヒントを得たのかもしれない。

未来を構想する時、どこかで未来は過去と繋がりを持ってしまうことがある。古代に存在したアイテムそのものではなく、そのアイテムがもたらした効果や目的について思いを馳せたときに、それらは共通の接点を持つ。ということがあるのかもしれない。途方も無いほどの時間の乖離ではあるけれど、こうしたことはたくさん存在しているのではないだろうか。

経済が加速してきた近年。歴史上最も流動的でスピードが早い時代だろう。そのスピード感の中で見る未来は、ずいぶんと近いものになった気がする。20年後を語るのは長すぎるので10年で考えましょう。それでも現実味がないので5年で考えましょう。といったことは、銀行との会話の中では頻繁に登場するセリフだ。あまりにも短い時間軸の中で動いている。

設定する時間軸が長短によって、投資も行動も計画も異なる。ということは、経営者でなくとも多くの人が経験したことがあるだろう。いつの時点をゴールにするか。走る距離が100mなのか、それとも1000kmなのかで、準備も体の作り方も何もかもが違う。

もちろん、スプリントも必要なのだ。それは現場で起こっている状況を見れば明らかである。ただ、同時に遠い未来を見据えて行動することも忘れてはいけないのではないだろうか。たかだが150年程度の昔に起こったことだ。そして、たかだか150年先の未来の話だ。という観点も同時に持っておいても悪くないだろう。

今日も読んでくれてありがとうございます。未来をある程度見通せる人は、ほぼ必ず同じ程度の過去を学んでいる。過去を学んだからと言って未来を見通すことが出来るわけじゃないけどね。最低限知っておくべきことなんだろうな。時間のスケールがバグった状態で、歴史を見ながら現場の経営を行うのは、なかなかしんどいんだけどね。それはなにかのヒントになるのだろう。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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