今日のエッセイ-たろう

歴史に学ぶ、気候変動と食料危機と経済圏。 2023年6月23日

地球温暖化が社会課題として言われるようになってから、すでに数十年。体感的にも、どうやらそのようだぞ、と感じることがあるのはぼくだけではないだろう。小学生の頃は、夏の間で一番暑い日で30度を超える程度だったような気がする。暑かったけど、現在ほどじゃないんじゃないかと思う。データを見れば明確なのだけれど、そうじゃなくても感覚的に信じられる程度には温暖化が進んできているのだ。

地球全体が暖かくなったり寒くなったりするほどの気候変動は珍しいことではない。平安時代の前半と後半ではずいぶんと気温が違うのだ。中性温暖期。そんなふうにも言われている。暖かくなると、農作物が豊かに実り、それまで寒かった地域でも豊かに暮らしていくことができるようになる。世界全体で、人口分布域が広がる。じわっと北へと広がるのである。

寒くなれば、豊かな土地を求めて南下する。ゲルマン民族大移動だとか、モンゴル系民族の南下は歴史的な大事件であった。

それほど、ぼくらは自然環境に影響されている。

それでも、緩やかな変化であればまだいい。人間社会も緩やかに変化することで対応できる。1万年ほど前に氷河期が終わって温暖化した時、徐々に内陸部へと移り住んだ。とするならば、それは百年単位の長い時間をかけて移住を繰り返したのかもしれない。昨今の温暖化は、緩やかとは言えないような気がしているのだけれど、どうなのだろう。

気になったので、身近なところで「日本史と気候変動」の関係をざっと学んでみている。実に興味深い。変動が早いときもあれば緩やかなときもある。とくに急激な変動が起きたときは「異常気象」となって、それは災害と呼ばれる。

奈良時代から平安時代の最初の100年ほどは、飢饉が頻発していたようだ。ざっと3年に2回はある。日本の気候では、米の収穫は年に一度だけなのだから、食糧問題は常態化していただろう。900年を過ぎたあたりからは飢饉の回数が減少する。全体的に暖かくなったことで、作物の成長が良くなったし、栄養状態がよくなったことで疫病も減った。けれども、養和の飢饉(1180年)という、日本史上最悪と言われるほどの飢饉は温暖期にも発生している。

日本史だけを見ても、近代まで飢饉は繰り返されている。記録的な不作という意味では、平成に入ってからの米不足すらも同様かもしれない。大きな人的被害が発生しなかったのは、経済圏が拡大したことや、より広い世界で輸送ネットワークが構築されていたこと、普段から国際交流を行っていたことが大きな助けになったのだろう。

普段から仲良くしていて、助け合っている。その人達が困っているのだから助けよう。こんなネットワークが予めあることが大切なのだろうと思う。もちろん、順序が逆のパターンだってある。助けてくれたら見返りに…。という話をすることもあるだろうし、逆の立場から条件提示をすることもあるだろう。

決定的に違うのは、親密度。相互利益だとか合理性だけで数値化出来ない感触。国家間にただようクオリアのようなもの。

天明の大飢饉(1782-1788)は、江戸時代を通して最悪の被害をもたらした。人口は120万人弱減少した。現代でも地方都市がまるごと消滅するほどの規模である。この時代の人口は3130万程度だから、かなりの被害だ。これ以外にも、日本全体の経済や生活に大きな影響があった。それは、国内の輸送が充実していて、経済圏が大きくなっていたことが原因だと言われている。

不思議なことに、平成の米不足のときにプラスに働いた要因が、江戸時代にはマイナスに働いていたのだ。

シンプルに言ってしまえば「食料を金に替える」行為が原因。被害の大きかった地方の藩は、蔵にあった備蓄米を売り払ってしまった。その年に収穫される米は、春には売られている。そうでもしないと財政が成り立たないほどに藩の財政は困窮していたのだ。

売るために作る米は、品種も置き換えられた。元々東北地方で主力だったのは赤米。寒さに強く丈夫だからだ。弱点は美味しくないこと。米の売買は大坂が中心だったし、江戸が一大消費地である。マズイ米は安くなる。だから、換金するためには西日本と同じ米を作る必要があった。結果として、冷害が発生したときには被害が拡大するのだ。

これに拍車をかけたのが、商取引。大消費地は、他の地域から食料を輸入することで成立していた。江戸の人々は江戸産の米では賄えない。生産地が不安定になれば、江戸の米価格が上昇。これに伴って、諸々の食品が高騰し始める。そうした情勢を敏感に察知した、米市場に出入りする商人たちは、米を投機対象にした。購入しておいて、もっとも高くなるタイミングで手放す。みんなで米を抱え込めば、流通量が減って更に高くなることはわかっている。それが可能だったのは株仲間という組織があって、互いに強い商業的信頼関係で結ばれていたからだ。近代以降、アメリカやヨーロッパでトラストと呼ばれた団体と似ているかもしれない。

現代でも似たようなことが実際に行われている。中東の石油産出国は、世界のエネルギー不足に合わせてかなり輸出を制限している。掘れば湧く余力のある油田を掘らないようにしている。だから、石油が高値で売れて国が豊かになる。同じ仕組みだ。

こうした事例を探し出せば、歴史の中に大量に存在している。局部最適化。そう言えるのかもしれない。ただ、全体最適化を考えるといっても、どこまでを全体として捉えるのかが難しそうだ。現代では、国がその最大単位ということになっている。

今日も読んでくれてありがとうございます。石油と米とを並べてみると、江戸時代の日本にとって、米は世界商品と同じ性格を持っていたんだろうな。今は、鎖国していないから米がそこまで経済液なインパクトを与えることもなさそうだけれどね。いや、小さくはないか。

こんな時代だもの。せめて主要作物くらいは投機の対象から除外できないもんかね。

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武藤 太郎

1978年 静岡県静岡市生まれ。掛川市在住。静岡大学教育学部附属島田中学校、島田高校卒。アメリカ留学。帰国後東京にて携帯電話などモバイル通信のセールスに従事。2014年、家業である掛茶料理むとうへ入社。料理人の傍ら、たべものラジオのメインパーソナリティーを務め、食を通じて社会や歴史を紐解き食の未来を考えるヒントを提示している。2021年、同社代表取締役に就任。現在は静岡県掛川市観光協会副会長も務め、東海道宿駅会議やポートカケガワのレジデンスメンバー、あいさプロジェクトなど、食だけでなく観光事業にも積極的に関わっている

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